C第16話「小僧寿し」

Category: シュウカツ俯瞰
最後は“小僧寿し”のお話です。
“小僧寿し”と言えば、「鉢巻太助(はちまきたすけ)」をキャラクターとする持ち帰り寿司チェーンの代表格、全国に500を超える店舗を展開するジャスダック上場の有名企業です。

その“小僧寿し”がなんと、「抜本的な経営改革を行い、早期黒字化を目指し、安定的な収益を計上できるスリムで筋肉質な経営体質に転換するために、社内外から広く意見を募集」という目的で、8月一杯、株主、客、FC加盟店、取引先、従業員など「全ての方」から経営方針の提案を求めているのです。
これには、多くの方から「開いた口がふさがらない」と反響続出。反面、話題集めには格好のネタという評価もあるようです。
それはそうでしょう、なにせ経営に携わってもおらず、経営に携わった経験もなく、小僧寿しを知っているだけという人も含めて、なんでもよいので知恵を貸してください、と言っているようなもの。「経営幹部が『もうどうしたらいいかわからん』って言っているのと同じ」という声にもうなずきたくなります。

さて、ここで“小僧寿し”のここ数年の迷走を振り返ってみたいと思います。そこに、今回の珍騒動の背景が隠されていると思うからです。

“小僧寿し”は1964年に創業、その後、フランチャイズで全国へ展開し、2004年にはジャスダックへ上場、ここまでは順調な成長軌道を辿ってきたと言えるでしょう。
その後、外食業界の競争激化の中、すかいらーくの傘下に入りましたが、すかいらーく自体が経営不振に悩む中、2012年にイコールパートナーズというファンドに買収されることになったのです。
このイコールパートナーズというファンドは、一括請求サービスというITビジネスで急成長したベンチャー企業経営者が立ち上げたものでした。
いわば、持ち帰り寿司という業態とはまったく無関係なファンドが経営権を握ることになったのです。
しかし、この異業種からの参入は惨惨たる結果をもたらしました。わずか1年半の経営の中で「日本経済の再生に貢献したい」というキャッチフレーズで商品の1円値下げを行い、さらにおせちセットの販売など、いくつかの新規サービスに取り組みましたが、そのほとんどが人目を引くだけの効果しかなく、経営の立て直しには貢献できませんでした。

そうしましたら、こんどは三菱商事出身、海外で弁護士活動をしてきた方が経営権を握ることになりました。
これも持ち帰り寿司という業態とはあまり関係のない経営者です。
やはり、することは同じです。こんどは寿司屋でピザを扱うという新機軸です。「寿司専門店」+「ピザ専門店」+「どんぶり専門店」の新たな三業態複合テイクアウト店という挑戦ですが、これもまた人目は引いたものの、経営の立て直しにはほとんど寄与しませんでした。

二代にわたる異業種からの経営者は“小僧寿し”の経営再建には機能しなかったのです。機能しなかっただけであればまだしもです。今度の経営者はなんと社外への不適切な支出(資金の持ち出し)という理由で退任することになりました。

そして、いよいよ建設関係の企業家が経営者に登場することになりました。IT業界⇒弁護士⇒建設業界と三代続いて、持ち帰り寿司という業態とはあまり関係のない経営者となったのです。
もちろん、業態経験のあるなしが経営者にとって決定的な要素とは言えません。日本航空の経営再建は京セラの創業者が成し遂げたものです。そうした事例は枚挙に暇がありません。
しかし、経営再建に成功した経営者にはやはりきちんとしたビジョンがありました。
1円引きサービスとか宅配ピザとかは、いわゆる思い付きの範疇でしかありません。経営理念であるとか、企業の存在意義であるとか、あるべき企業の姿であるとか、そうしたビジョンに欠かせない首尾一貫したメッセージ性はかけらも感じられないのです。要は新味があって、目立てばよい、あるいは売れればよい、というだけのものではないかと思われて仕方ありません。

そうした観点で考えてみますと、今回の経営方針の募集も同じ臭いがしないでしょうか。たしかに耳目は集めるでしょう。しかし、なぜ募集するのか、という理念がそこにあるでしょうか。
もちろん、新しい経営者のもとに“小僧寿し”の経営再建は進められるでしょうし、その成否を今論じる必要もありません。
皆さんはビジョンとは何か、ビジョンが経営に何をもたらすのか、という観点から“小僧寿し”の今後の経営に注目していただきたいと思います。