C第14話「雪国まいたけ」

Category: シュウカツ俯瞰
ここまで、「組織」が“関係性”や感情に流されないあり方として、①信賞必罰、②コミュニケーション、③ビジョンを取り上げてきました。
今回からは、それを失ったとき「組織」はどうなるのかを、具体的な企業を題材に調べてみたいと思います。

最初は、“雪国まいたけ”です。
新潟県南魚沼市に本社があり、東証2部に上場されている株式会社、1972年創業と歴史は新しいですが、まいたけ、エリンギ、エノキタケなど、キノコの栽培では業界トップを争っています。売上も年商300億円近く、従業員も1,000名規模ですので、これは立派な大企業と言ってもよいでしょう。

この大企業が有価証券報告書の虚偽記載、わかりやすく言いますと、一種の不正経理を行って架空の黒字を計上した、という大事件で揺れたのが昨年の秋でした。
その内容は、ライバルとの競争で企業経営が悪化する中、①損失計上すべきだった土地関連費用を資産へ計上、②一部事業用資産の減損処理を回避、③広告宣伝費を次年度へ計上、の3項目で総額14億円の不正な処理を行ったことでした。
そして、問題はこうした不正経理が内部告発で明らかになり、それを暗黙裡に主導したのが創業者であり、大株主でもある代表取締役だった、ということです。
その間の事情を報道ではこのように伝えています。
「創業者の強すぎたリーダーシップによる暗黙の重圧があった」、「幹部や社員が創業者の思いを忖度(そんたく)した結果の行動だった」、「背景には経営トップによる業績維持の圧力が幹部や担当者まで及んでいた」など。

さて、ここまでで事件が終わるとすれば、それは一企業におけるガバナンス(企業統治)の未熟で済んだことでした。
しかし、事態はさらに迷走します。

それは、不正経理の責任を取って創業者は代表取締役を辞任し、代わりに当時取締役でかつてイオン執行役員を務めた方が代表取締役へ就任。さらに、「創業家兼大株主の影響を受けないようにするため、適度な出資割合まで引き下げていく方向で交渉を行っていきます」とした改善報告書を東京証券取引所へ提出し、創業者も今年春には顧問を退き、いよいよ経営再建だ、と世の中は受け止めたのです。
しかし、今年6月に開かれた定時株主総会で、会社提案の取締役人事案に対し、創業者一族から異なる人選での取締役選出の動議が出されました。会社提案では代表取締役らの再任でしたが、創業者一族の動議はすべての取締役を入れ替えるもので、これが賛成多数で可決され(大株主は創業者一族ですから)、代表取締役らは取締役を退任。代わって元ホンダ専務取締役の方が代表取締役へ就任したのです。
要するに、創業者一族は自分たちの跡を継ぎ、経営再建へ乗り出した経営陣にノーを突きつけ、その首をすげ替えた、ということです。
この先、“雪国まいたけ”がどういった経営再建を進めるのかはわかりません。
しかし、ここで問題にしたいのは信賞必罰という観点から見てどうなのか、です。

信賞必罰の大前提は、たとえ経営者であってもその対象からは免れない、ということです。
仮に組織の上位者が信賞必罰から逃れられるとするならば、誰が信賞必罰を信用するでしょうか。信賞必罰の重要な前提は、ルールが明らかであり、例外のないことなのです。
その意味からすれば、創業者が代表取締役を辞任したのは立派に信賞必罰を守った行為でした。
しかし、今回の経営陣交代はどうでしょうか。
仮にそれが創業者一族の影響力を“雪国まいたけ”で維持し、創業者一族が経営をコントロールするためのものであるならば、これは明らかに信賞必罰ではありません。
むしろ、“雪国まいたけ”という「組織」の中で、創業者との“関係性”を温存助長する行為だ、と言ってもよいでしょう。

ちなみに、“雪国まいたけ”が不正経理に走った背景には、ライバルである長野市のホクト株式会社との熾烈なシェア争いがあったと言われています。
そういう意味では、新潟と長野のキノコ戦争がとんだところまで飛び火したものです。
皆さんも地元の企業に関係のある“雪国まいたけ”の経営が今後どのように展開されるのか、「組織」における“関係性”や感情という観点から注目していただきたいと思います。