C第13話「ビジョン」

Category: シュウカツ俯瞰
「組織」が“関係性”や感情に流されないあり方はどういうものなのかを考えようと、信賞必罰(賞すべき功績のある者には必ず賞を与え、罪を犯し、罰すべき者は必ず罰するという意味とに他なりません)、コミュニケーション(何を話してもよい、上司は部下からの批判にも耳を貸す、お互いに言いづらいことも言う、背景に安心感があり、それに支えられて、まわりへの関心が芽生え、そして行動が起こる)という二つの仕組みをお伝えしました。
最後はビジョン(経営理念で規定された経営姿勢や存在意義に基づき、こうなっていたいと考える到達点、目指すべき中期的なイメージを投資家や従業員や社会全体に示したもの)です。

人は自分の乗っている船がどこへ行こうとしているのか、それがわからないときに不安になります。先が見えないときには安心もできません。
こうした疑心暗鬼の状態は、人に強く“関係性”や感情を想起させます。誰かに頼りたい、頼もしそうな人に寄り添いたい、重要人物に嫌われたくないということです。
こうなりますと、「組織」はどんどん“関係性”や感情に引きずられてゆきます。

従って、「組織」は進むべき道筋、将来の目標をビジョンとして発信する必要があります。
たとえ今は辛くても、ここを乗り切れば先は明るいと思えれば、人はけっこうタフに振る舞えるものです。逆に先が見えないと、人は本来の能力やエネルギーをフルに発揮できないものです。
ここにビジョンの重要性があります。

ジェームズ・C・コリンズというドラッカーの教え子がいます。スタンフォードで長年教鞭を取ってきた経営コンサルタントですが、彼の名著に「ビジョナリー・カンパニー」4部作があります。
卓越した業績を上げてきた企業を分析し、その中から普遍的に通用するあり方を探るもので、1と2では成功した企業の理由を、3では成功した企業が衰退した原因を、4では不安定な環境においても躍進した企業を、それぞれ取り上げています。
例えば、1926年から90年までの65年間、ビジョナリー・カンパニーの株式の累積総合利回りは市場平均の15倍に達しているそうですので、長期にわたって成長を続けている企業だ、ということがわかります。
そこで強調されることは、その会社がどこへ進もうとしているのかが、社員はもとより、お客さまにもきちんと伝わっている、ということです。

もちろん、GEやIBMのような世界規模の優良企業とごく普通の中小企業を一緒に考えることはできないかもしれません。
しかし、たとえどんな小さな中小企業であったとしても、自分たちがどこへ進もうとしているのかが明らかになっていなければ、日々は疑心暗鬼、出たとこ勝負の連続になってしまいます。
ですので、どんな「組織」であってもビジョンは欠かせないとお考えください。

ただし、そういったビジョンがどのように形作られたのか、というプロセルにも注意が必要です。
信賞必罰の話の中でも、単に上から押し付けられる「基準」よりは、自分自身が参加して決めた「基準」の方がそれを遵守する意識は高まる、とお伝えしました。
これはビジョンでも同様です。
仮にそうしたプロセスを取ることが難しい場合は、ビジョンの背景や根拠が明らかになっていることが重要になります。
これも筆者の体験談ですが、ある会社のコンサルタントをしている際に驚いたのですが、ビジョンはどういったものかと経営者から聞き取りをしていましたら、〇〇%の利益率、という回答が返ってきました。ただし、どうして〇〇%なのかを確認したところ、業界水準(根拠は不明でしたが)ということでした。
これがはたしてビジョンとして「組織」内で共有できるものかどうか、当然おわかりのように、これは上から押し付けられる「基準」であって、ビジョンと言えるものではありません。
もちろん企業ですので利益は重要です。しかし、利益を上げるのは何のためか、です。
例えば、クライアントから契約を切られた際の備えにしよう、でもかまわないのです。給与水準を改善しよう、でもかまわないのです。第二の営業拠点を設ける原資にしよう、でもかまわないのです。
少なくとも達成すべき何かがあって(組織メンバーが納得できる)、それを実現するために〇〇%だ、というのであれば、まだしも救われます。

ビジョナリー・カンパニーでは面白い表現をしています。
ビジョナリー・カンパニーは確固たる基本理念を持ち合わせている、利益の追求はこうした基本理念追求の手段である、ということです。
例えば、ある企業の基本理念は「顧客へのサービスを何よりも大切にする」だそうです。
こうした基本理念(ビジョン)と比べて見ますと、〇〇%の利益率という表現がいかにみすぼらしいか、です。

いずれにせよ、組織メンバーが納得できるビジョンを明らかにすることによって、「組織」が“関係性”や感情に流される危険性はかなり少なくなるのではないでしょうか。
どうか皆さんも、ご自分の属する「組織」ではどうなのか、信賞必罰、コミュニケーション、ビジョンという三つのあり方をよく観察していただきたいと思います。