F第43話「鳥の目を持つ」

Category: シュウカツ俯瞰
人間はどうしても自分の所属している「内」を向き、一つのことにこだわりたがる生き物です。
しかし、人間の社会は多様性に満ちています。
こうした「内」と「外」の矛盾を解消するのがビジネスだと考えてもよいでしょう。
ビジネスの世界は、ものやサービスを提供するサプライヤーと、ものやサービスを受け取るコンシューマー(カスタマー、ユーザ)が存在します。
そして、それを取り巻くさまざまな利害関係者(ステークスホルダー)も存在します。
これだけ複雑で多様な環境で生き残る(成功する)ためには、「内」を向いているだけではいけませんし、一つのことだけにこだわってもいけません。

これを別の言い方で現わしますと、より巨視的なものの見方をすることが必要だ、と言えます。
巨視的(ものごとを全体的に観察する)、これもわかりにくいと言う方もいらっしゃるでしょうから、さらに別の言い方をしますと、蟻の目から鳥の目に変わることです。
地面だけを見ていれば蟻と同じです。ひたすらに歩き回り、仲間のあとをついてゆく、あとは物量作戦で、とにかく数の多さで何とかするしかありません。
それと比べると、鳥は違います。空の上から地面を見ることができます。広い視野の中から餌を探し、仲間を探すことができます。
結果して、蟻の世界は狭く、鳥の世界は広いのです。
そして、その差は地面という限定された環境から離れたことにはじまります。

これはビジネスも同じことです。
つい先ごろ、マクドナルドのナゲットから異物が見つかるという事件がありました。
これはサプライチェーンマネージメント(SCM)という考え方を知っていればより深く背景がわかるのですが、外食産業は世界規模の供給網(サプライチェーン)の中にあります。例えば、野菜は中国から、魚はアラスカから、そして鶏はタイから、というようにです。
そうなりますと、企画⇒生産⇒加工⇒配送⇒供給という一連の流れの中にある、さまざまな要素や関係者を見通してコントロールしないと良質なものやサービスは提供できません。
今回のマクドナルドの事件はそうしたサプライチェーンのどこかしらでトラブルが発生したのでしょう。
これまでにように、企画は企画だけ、生産は生産だけ、加工は加工だけ、配送は配送だけ、供給は供給だけを考え、見ているだけではトラブルの解決は難しいと言えます。そして、マクドナルドはどこかしらで巨視的な組織風土を失い、タコツボ状態になってしまったのかもしれません。

このように、自分の属している組織、あるいは自分の持っている価値観から離れてものを見る、という行為が巨視的であり、鳥の目であると考えていただきたいと思います。
もちろん、最初は自分の属している組織からものを見るのですし、自分の持っている価値観からものを見るのですが、それにこだわり、それに閉じこもるといけない、ということです。

では、どうしたら巨視的に、あるいは鳥の目でものを見ることができるのでしょうか。
その最初の糸口は、前回にお伝えしたネットワークです。
自分とは異なる組織に属し、異なる価値観を持っている他人とのつながり、出会いの中から、さまざまなヒントをいただくことができます。
例えば、公務員は特別な法律で縛られ、全体の奉仕者であるという教育と束縛の中で生きています。ですので、理屈としては全体(住民)へ奉仕しなければいけないとわかっているはずです。
しかし、どうでしょうか、公務員ほど目線の高い人種はいない、とよく言われます。
公務員が住民への奉仕を価値観としながらも、住民の目線でものを考えることができないとすれば、その最大の原因は公務員が外に向けたネットワークをあまり拡げていないことにあるのではないでしょうか。
それほど、組織の外に拡がるネットワークは重要なのです。

次に、幅の広い知識を身に着けることです。自分の仕事に関係のある知識だけに埋没しては、いつまでも蟻の世界から抜け出せないでしょう。
そのためにもっとも効率的な方法は、日本経済新聞を読んで理解できるようになる、ということです。
立花隆の言葉を借りれば
「僕が、『現代の常識』のレベルとしてよく例に出すのは、日経新聞を初めのページから最後の文化欄までをちゃんと理解できる、これが現代人が持つべき知識の基本ラインである、という表現です。(立花隆「東大生はバカになったか」2001年10月、文藝春秋)」
ということです。

いかがでしょうか。
ネットワークと鳥の目、互いに関連し、互いにより高め合う道筋ではないでしょうか。
まずは、タコツボから一歩外に出てみましょう。