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B-B「中国を知る⑤~薄熙来事件~」

薄熙来(はくきらい)の裁判が山東省済南市ではじまりました。
薄一波副総理の息子、第17期中国共産党中央政治局委員兼重慶市党委員会書記を務めた、中国共産党の上から20番以内に入る実力者で、第18期には中央政治局常務委員としてBest10入りは間違いないと思われたホープでもありました。
それが「裁判」される、これはなかなか考えられるものではありません。
これまでも、2006年の中央政治局委員兼上海市党委員会書記の陳良宇、1995年の中央政治局委員兼北京市党委員会書記の陳希同と、このクラスの実力者が汚職と職権乱用で逮捕され、裁判にかけられたことは皆無ではありません。
しかし、この二件はいわゆる権力闘争で当時の中国共産党のトップである胡錦濤と江沢民に反抗したことが原因であると、ある意味では明確になっています。また、二人とも裁判ではまったく争わず、争わなかったことが背景に権力闘争があって、二人は既に敗れたと証明されているからです。

そこにいきますと、薄熙来は明らかに異常です。
第一に裁判が公開されています(部分的とはいえ)。
第二に裁判所の周りには親薄熙来の人たちが大勢集まり、薄熙来の無実をアピールしています。
第三に薄熙来本人が罪状に対して争っています。
こうなりますと、裁判の前に決着がついていることがほとんどの中国の政治劇の中では異例で、いまだ薄熙来に関する諸問題が決着していないことを示していると言えるでしょう。これは、中小企業や小規模事業者にとって重要な市場となる中国において、政治的には中国共産党内部でも不安定要因があることに他なりません。今後も十分な注意が必要でしょう。

それでは、薄熙来問題を少し整理してみましょう。
まず、出身派閥から見ると太子党(党幹部の子弟)ですから、習近平主席とは同じ派閥にいることになり、胡錦濤に代表される青年団(党エリート官僚)でも、江沢民に代表される前政権派でもないことになります。
しかし、同じ派閥のリーダーを争うという意味でも、父親同士がライバルだったという過去からも、実は薄熙来と習近平は緊張関係にあったとも言われています。
次に政治的な立場から見ると明らかな“左”です。鄧小平が主導した改革開放が「先に豊かになるものから豊かになる」という理念のもとに貧富の格差を拡大したことを批判し、毛沢東に倣って「貧しくとも平等」という理念を推し進める一面があります。それは、一般大衆の支持を最優先に、犯罪組織一斉検挙キャンペーンである“打黒”を展開したり、大規模汚職事件を摘発したり、薄熙来は毛沢東が文化大革命で実践したように、法やルールより大衆からの支持を重視する姿勢を鮮明にしたのです。しかも、その過程で自分の政敵を大衆の嫌う腐敗幹部として徹底的に排除するとともに、無罪の者を有罪に、死刑に値しない者も処刑するなど、法を無視した恣意的なやり方も横行することになりました。こうした手法は、胡錦濤に代表される鄧小平の延長線上に法と秩序を構築しようという路線と真っ向から対立するものでした。

こうしてみますと、第一には習近平指導部がまだまだ安定した政治環境を作りえていないことがわかります。第二には李克強首相が主導する鄧小平の改革開放路線の延長線上に中国の未来を位置づけ、恣意的な政策運用から一定の法とルールによる秩序化を図ろうという動きもいまだ道遠しということがわかります。
しかし、第86話でもお伝えしたように、「これから中国経済がどうなるかは国際経済の専門家にお任せをするしかありませんが、筆者は先ほども申し上げた中国の二重構造がこの問題を解決すると考えています。それは、強権的な対策は中国共産党が、それを現実とすり合わせる対策は地方政府や企業、一般国民が、それぞれに行うのではないか、と思うからです。強権的な対策だけでも、現実とのすり合せだけでも解決は難しいですし、少なくとも強権的な対策が可能で、それが一定の成果を上げうる『社会主義国家』中国のある意味では良い面が発揮されるのではないかと思うからです。従って、多少の波乱はあるでしょうが、依然として中国市場は日本の中小企業や小規模事業者にとって魅力的であり続けるでしょう。」ということに変わりはありません。
しかし、国内の矛盾が対外的な行動をかえって強硬にさせることもありますので、引き続き注意を払う必要があるのではないでしょうか。

C「創業者魂」

新しく事業を起こす人、いわゆる創業者には強烈な人が多いと思います。筆者の出会った中で言えば、アルプス技研の松井利夫さん、何とも言いようがありませんが、やはり強烈です。ついつい人との関わりの中で流されて、などという凡人特有のパターンは考えられません。もちろん、巨額の創業者利益をお持ちですから、気前がよいのは気前がよいのですが、そこには必ず松井さんとしての価値観が反映されてのことなのです。

さて、そうした創業者の中で今回ご紹介したいのは、ブックオフの坂本孝さんです。「本を売るならブックオフ」で、1990年に神奈川県相模原市に第1号店を開店し、2004年には創業14年で東京証券取引所第二部へ上場、国内に1,000店を超える規模にまで成長させた創業者です。しかも、パートタイマー出身の橋本真由美さん(タレントの清水國明さんの実姉)を常務取締役へ抜擢、さらに社長へ登用するなど、革新的な経営手腕でも注目を浴びた方です。
その後、2007年に粉飾決算と取引先からのリベート、さらにはセクハラ・パワハラ問題などが続出し、経営陣から身を引かれたのです。で、お年も70歳近かったことから、筆者などはもう終わった人なんだろう、と安直に考えていました。
ところがところが、日本経済新聞によれば、“俺の株式会社”という外食レストランを引っ提げて、新たな挑戦を着々と進めているらしいのです。儲かっているのはミシュランの星付か、立ち飲み屋か、という現実に目を向け、一流料理人が高級食材を使って、それを立食スタイルと手ごろな価格帯で楽しめる店を、既に21店舗も出しているらしいのです。しかも、そうした料理人を執行役員へ登用し、先々の株式上場に際しては多くの社員へ恩恵が行きわたるように配慮しているとのことです。
これは驚きです。
第一にお金に困っている人ではありません。
第二にやっていることが金持ちの道楽ではなく、ちゃんとした創業で、しかも新しい価値(高級料理を立食で安く)を社会に提供しています。
第三に既に73歳という高齢です。
こう見てみますと、まさに創業者魂ですね。
「雀百まで踊り忘れず」の典型のような方です。

しかし、実は坂本さんだけではありません。
例えば、1997年に経営破綻したヤオハン(世界15ヶ国で店舗を運営する小売・流通チェーン、最盛期の売上はグループ全体で年間5千億、創業者は“おしん”のモデル)の経営者だった和田一夫さんもそうした一人です。
こちらはもう80歳を超えておられますが、経営破綻後は福岡県の飯塚市の飯塚アジアIT特区などで創業したITベンチャー企業のご意見番、メンターとして活躍された後、今は上海に移住され、中国企業や中国関連プロジェクトの顧問などを複数務めています。

いかがでしょうか。
創業者というものがいかに凄まじいものか、おわかりいただけたでしょうか。皆さんがこれから出会う中小企業や小規模授業者の経営者も創業者であるかぎり、基本的にはこうした人たちの仲間だ、とご理解をいただきたいと思うのです。その共通項は、「お金を儲けたい」というよりは「新しい価値を社会に提供する」なのです。

C「読者からの質問⑮~企業対企業や人間対人間の相乗効果~」

このコラムは読者とのキャッチボールも重要と位置づけており、その作業の中から①これから社会に参加する若者の皆さんに「働く」、あるいは「ビジネス」ということがどういったものなのかを知っていただく、②中小企業や小規模事業者で働くために重要な知識やスキル、あるいは社会人基礎力を身につけていただく、③中小企業や小規模事業者の海外進出において必要とされるさまざまな国や地域の情報や文化風土などの基盤的な知見を知っていただく、そうしたことを深堀したいと考えています。

Q:「よきライバル~(第35話)」の話のように,企業対企業や人間対人間の相乗効果のお話も詳しくお聞きしたいです。
A:筆者もそんなに長くは生きていませんので、ご参考になるかどうかはわかりませんが、筆者の人生を大きく変えた事件を二三ご紹介し、皆さんの人生における転換点を考える上で参考にしていただければと思います。
筆者は地方公務員を長らく勤めておりまして、企画畑、観光畑が多かったのですが、そうですね45歳近い時期でしたでしょうか、企画調整課長補佐でありましたが、役人生活を強烈に辞めたくなりました。その原因は「中国」です。
会津若松市は湖北省荊州市と友好都市関係にありまして、二年に一度は訪問して、友好協定の中身をあらためて決めるというお仕事で、人生はじめて中国へ渡ることになるのです。福島空港からチャーター便で武漢に入り、武漢から荊州まで車で行く旅でしたが、とにもかくにも「まいりました」の一言です。出会う人、出会う人のすべてが一所懸命に生きている。ただの一人も日本人のような緩い目をしていません。みんな、生きること、稼ぐことに懸命です。
小学校の前で自転車の後ろにリヤカーをつけて、帰り道の子供たちを乗せ、そのついでにシシカバブ(羊の串焼き)や飴やお菓子を子供たちに売りつけている老人を見たときに、「これはかなわないな」とつくづくと思いました。同時に、「俺はこんなことをしていてよいのか」という自問です。日々、議員や上司のために資料を作り、あるいは内部の調整に走り回り、働くことの7割以上が内向きの仕事です。何の生産性もありません。何の社会性もありません。まったくもって「市役所」、そしてそれを取り巻く「議員(政治家)」と「一部の市民(声の大きい有力者)」というインナー社会でしかないのです。強烈に、「俺はこんなことをしていてよいのか」と思いましたね、正直な話。
そこで、当時の市長に辞表を持って行きまして、「辞めさせてください」と申したのですが、「あなたここまで成長したのは市役所の皆さんのお蔭ではないのか、もう少し市役所へご奉公したらどうか」と言われまして、第三セクターへ出向させていただいて、そのまま市役所へは帰らずに退職することになったのです。

その第三セクターで得た出会いがその後の筆者を変えることになりました。何せ、産学連携の世界は当時創業期にありましたから、何の前例も無く、何のルールも決められていません。役人にははなはだ都合の悪い世界です(役人の特技は前例やルールを守ることにあります)。また、この世界に徘徊している人たちも、百花繚乱、百鬼夜行です。まさに「強烈」の一言です。
その中で、最初にお会いした立命館大学の田中道七先生、この方から「立ち止まって考えてもしようもない、歩きながら考えなさい」と諭されたときは、思い切り背中を押されたような気になりまして、前に進むことができました。
そして、皆さんご存知の佐久間陽一郎さん、とにかく「ウルトラ」、常に客観的な究極の選択を迫られます。この前も職場のどうしようもなさを伝え、職場を去る意思を決めていた際に、「一番の選択は、あなたが前の職場とそっくり同じ職場を再現し、クライアントを奪うこと」と言われ、客観的にクライアントに対して最高の効果を考えるならばなるほどそうだ、と思った次第です。
お答えになっているかどうか疑問ですが、筆者の場合は、常に出会いが人生を変えてきた、と思います。これは以前、第6話で触れた「経路依存症」の問題で、「私たちが経路依存症から抜け出すためには、経路から外れるための出会いが必要です。そして、そうした出会いは単なる偶然ではありません。そうした出会いには必ずある種の準備が必要です。『いつかは経路依存症から抜け出す』という意識のもとに、常日頃から出会いをイメージし、出会いへ向けた関係構築力の向上に努め、そして出会いの場を積極的に求めて行動する、こうした準備が必要なのです。」ということではないかと考えています。

C「読者からの質問⑭~事業から事業へと展開するリスクヘッジ~」

Q:会社の「カネ」を「事業から事業へと転がす」というリスクヘッジについても興味あります(ソフトバンクがソフトウェア商社から携帯通信会社に移り変わったように)。

A:いわゆる企業の中には、創業時の事業をそのまま継続、発展させているケースもありますし、創業時とは縁もゆかりもない業態に変化しているケースもありますし、創業時の周辺に事業を拡大しているケースもあります。まさに千差万別です。
しかし、一つのポイントとしては、「その事業を行うことが企業のアイデンティティであり、ビジョンであり、かつ事業が成長をし続ける」のかどうか、ということがあるでしょう。アイデンティティやビジョンは、いわば企業そのものですので、そこで「その事業をする」ということが企業のレゾンデトール(存在意義、raison d'etre)であるならば、それはその事業が衰退しない限り、その企業にとって自分そのもの、ということになります。
従って、そもそもその企業にアイデンティティやビジョン、あるいは経営理念のようなものが確立されているのかどうかが大きいのだろうと思います。
そうした意味で、世界有数の企業であるゼネラル・エレクトリック(General Electric Company、略称:GE)を見てみましょう。
19世紀の後半、あの発明王エジソンの関わった会社を発祥とし、電気機器、インフラ関連(航空機エンジン、発電所など)、素材(プラスチック、シリコンなど)、軍事(ロケットなど)、金融(保険、銀行など)などに業態を拡大している、本当の意味での国際企業であり、巨大企業です。ダウ平均株価の構成銘柄のうち、1896年の平均株価算出開始以来、唯一残存している企業という意味では、アメリカそのもののような企業です。
しかし、このGEには強烈なビジョンと言いますか、経営理念がありました。それは、「選択と集中」を第一に、「その分野でのシェアが1位か2位であることをビジネス存続の条件とする」ということです。
要するに、業界で1位か2位になれない事業は切り捨てる(売却する)ということですし、1位か2位になるためには企業買収も厭わない、ということです。
企業としてのレゾンデトールが世界1、2位である、ということですから、こうなりますと、どの事業をするのか、ではなく、どうしたら世界最強になれるか、が重要なのです。
こうしたGEの強烈な経営手法は、ジャック・ウェルチという希代の経営者がそのリーダーシップのもとに生み出したものですが、筆者にはソフトバンクの孫社長はGEをなぞって経営しているように見えて仕方がありません。
特に携帯の世界に入ってからはそうで、日本テレコムの買収、ボーダーフォンの買収、スプリント・ネクステルの買収と、ひたすらに業界でのシェア拡大に資金も人材も投入している、と言ってよいでしょう。それだけが生き残る道だ、と言わんばかりです。
こうした強烈な経営が成立するには、何と言っても経営者本人の能力が問われます。
そうした意味では、このような業態転換のリスクヘッジはまさに経営者本人であり、経営者本人のリーダーシップのもとに企業一丸となって目的を達成するという企業統治(ガバナンス)が整っているかどうかだ、と言えるのでしょう。
これはGEのジャック・ウェルチ、ソフトバンクの孫正義、ユニクロの柳井正、皆さんそうではないかと思います。
ですので、経営理念(あるいはアイデンティティ、あるいはビジョン)があり、経営者があり、企業統治がある、これがご質問のリスクヘッジにあたるのではないかと思います。

F「このコラムに対する質問、感想、意見、問い合わせなどのルール」

このコラムをお読みの皆さんへ、少し質問、感想、意見、問い合わせなどのルールについてご説明を差し上げたいと思います。
このコラムは読者とのキャッチボールも重要と位置づけており、その作業の中から①これから社会に参加する若者の皆さんに「働く」、あるいは「ビジネス」ということがどういったものなのかを知っていただく、②中小企業や小規模事業者で働くために重要な知識やスキル、あるいは社会人基礎力を身につけていただく、③中小企業や小規模事業者の海外進出において必要とされるさまざまな国や地域の情報や文化風土などの基盤的な知見を知っていただく、そうしたことを深堀したいと考えています。
こうした観点から、今日現在、皆さんの中の7名の方が定期的に質問、感想、意見などを筆者までお送りくださっています。
筆者はそれに対して、回答、助言、反論などを返信させていただいております。
また、そうしたやり取りの中で「皆さんと共有してかまわないもの」「皆さんと共有することで新たな価値を生む可能性があるもの」については、このコラムの中で「読者からの質問」という形態により公表し、情報の共有を図っております。現時点で13回となりますが、コラムを単なるプッシュ型の一方通行にさせないためには極めて有効な手法ではないかと考えております。要するに、コラムを双方向(インタラクティブ、Interactive)的なものにするということです。

また、現在定期的に質問、感想、意見などを筆者までお送りいただいている7名の方は、自分自身の能力の向上を図りたいというご希望ですので、コラムも第1話目から1日1話を目標に、読み込んで質問、感想、意見などを送信するルールとしております。

皆さんにおかれましては、こうしたルールに沿う必要はありません。
ご自分の関心のあるところだけでかまいませんので、以下のルールに沿って質問、感想、意見、問い合わせなどをお寄せください。当日、あるいは翌日には返信できるようにしたいと考えております。
もちろん、先の7名の方と同様なルールをご希望であれば、それも歓迎いたします。
① 右のアドレスまで送信してください。yoshida@nojuan.com
② どのコラムに関するものか、第〇話とお示しください。
③ 氏名、居住地をお知らせください。
④ 内容によっては、送信いただいたもの、それに対する回答をコラム上で公表する場合がありますので、あらかじめご承知ください。もちろん、個人情報の公表はこれを差し控えます。
⑤ 筆者から返信した回答に対する再質問などは受け付けますので、何なりとお送りください。
⑥ 能力向上を目的とする場合は、第1話目から1日1話を目標とし、あらかじめ「このルールで」とお申し出ください。
⑦ このコラムを読んでいない知り合いで、こうした参加の仕組みに興味がある、という方にはどんどんコラムの存在をお知らせください。

以上でございますので、皆さんのご参加をお待ちしております。

C「読者からの質問⑬~バブル経済~」

Q:正直私はバブルの楽しさもバブル崩壊の恐ろしさも体験しておりません。もし現在の時代にバブルが起きてしまうとどうなってしまうのでしょうか?若者への経済への関心をもたらすきっかけを増やすことも重要ではないでしょうか?

A:筆者は経済学者ではありませんので、経済学的に正しいかどうかはわかりませんが、筆者の経験、そしてそこから得た教訓のことをお伝えしたいと思います。
筆者がバブルを実体験的に感じたことから申し上げましょう。
こういう事件がありました。バブルが土地に集中していた頃、そうですねリゾート法なる国土開発政策が取られていた昭和62年の頃でしたでしょうか、筆者の住む会津地域もその指定を受け、やれゴルフ場だ、やれスキー場だ、やれリゾートマンションだと、すさまじいほどの開発構想が持ち上がりました。ちょうど、筆者が市長秘書を勤めていたのですが、筆者の母親の同級生が、それこそ何十年ぶりに母親を訪ねてきて、筆者に会わせて欲しいと依頼をしてきたことがありました。その同級生はある不動産会社の方で、河川敷を活用したゴルフ場を造りたいが、この構想を市長にお話ししたいので、筆者から紹介して欲しい、という話。当然にお断りをいたしましたが、このように開発構想をリゾート法の計画に取り上げて欲しいと、全国から無数とも言える不動産会社、土木建設会社、観光会社、金融機関、はては土地開発とは無縁な会社まで、手に手に開発構想を携えて会津地域に群がってきたのをよく覚えています。
また、こんな事件もありました。会津地域の夜の街に見知らぬ男たちを見かけるようになったのです。みな、スーツ姿で標準語や関西弁を話し、身振りも金払いも派手な男たちです。ある夜、馴染みのスナックに入りましたら、若いママさんが筆者の隣にやってきて、小声で「今日は閉店まで居ていてね」とささやくのです。えらくもてるものだと思いましたが、要するにその晩は店にそういった得体のしれない客が数名居座っていて、何とも胡散臭いので怖い、だから常連の筆者が店にいてくれれば安心する、ということです。
とにかく一言で言えば、あらゆる人たちが金儲けに目の色を変えていた時代でした。その背景には、とにかくいろんなものが値上がりする、だから安いうちに買って、高くなったら売り払って儲けよう、そういうある種高揚した感情にほとんど人が踊っていた、と言ってよいでしょう。
では、そうした時代の雰囲気と言いますか、感情と言いますか、それがどういうものであったのかと言いますと、「何かすれば儲かる、黙って見過ごすのは愚かだ」ということです。いわば誰もが熱病のようにお金に取りつかれていて、また実際に土地も株も持っていれば値上がりして、実際に儲かる人がたくさん出ている、という状況になった訳です。
それが過剰流動性というお金のお化けがいろいろなところに出没して、いろいろなものを値上がりさせていた「バブル」ということでした。
しかし、ひとたび信用不安が起きて、誰もが値下がりを心配するようになると、「早く売らないと損をする」という心理状態になり、一斉に売りに出るのですから、すべてが暴落することになったのです。それが住専問題となって表面化したのです。
住専(住宅金融専門会社)が値上がりを期待して多額の資金を借りて土地を買い漁ったのですが、土地はどんどん値下がりする、しかも買い手がいないから売るにも売れず、借りた資金の返済はもとより、金利も支払えない、さてどうしましょう、ということになり、住専が倒れると、住専に多額の資金を貸していた銀行もおかしくなる、という負の連鎖がはじまったのです。
1989年のバブル最盛時には40,000円近くまで上がった日経平均株価(日本の上場企業の株の指数)が、ひどい時には8,000円近くまで下がったのですから、ざっと上値と下値では5分の1にも株の価格が落ちたことになります。
しかし、筆者は市長秘書の時期にリゾート開発の担当係長だった先輩の一言をよく覚えています。「あんな原野が高い土地になるはずがない、水道も道路もゼロの土地が化けるなんてありえない」、彼はその信念のもとに、大量に押し寄せてきた開発構想をほとんど認めず、おかげで土地を売りたがっている農家の人たち、それを開発して大儲けしようと狙っている会社の人たちから大変うらまれたものです。
筆者はその先輩を見ていて、なるほど一般常識とはこういうものだ、熱病が流行ろうと、何が起きようと、一般常識で判断することが重要だと認識しました。
いかがでしょうか、周りの右往左往は別として、自分としての価値観や一般常識を大切にすることがどれほど大切か、おわかりいただけたでしょうか。

C「日本経済新聞を読む~8月23日~」

第42話で、日本経済新聞の読み方や注目すべき記事などについて少し触れましたので、今回は8月23日の紙面から、中小企業や小規模事業者に影響のありそうな記事を二三ご紹介したいと思います。

まずは1面です。「中国事業の売上高、尖閣前に戻らず3割」とかなりセンセーショナルに取り上げています。皆さんもご存じのとおり、日本の最大の貿易相手国は中国です。また、さまざまな企業が中国へ進出し、生産基地としても販売市場としても重要な位置を占めています。その中国があの南海の孤島の事件以降、どうなっているのですか、ということです。
今回の日中対立で中国事業への影響は7割以上の企業に及んでいて、「販売減少」が72%、「顧客開拓の停滞」が41%となっており、8月現在でも売上が問題発生前に回復していない企業も3割に達していることがわかりました。
また、日中関係の変化については、「問題発生前に戻った」が11%、「一時よりは和らいだものの戻ってはいない」が65%、「引き続き厳しい」が20%と、依然として中国内部の反日嫌日感情は収まっていない、ということでしょう。
さらに、これからの中国事業の位置づけについては、「事業展開に変更なし」が59%、「事業拡大を検討」が26%、「事業拡大中」が3%と、90%近くの企業が中国事業は縮小しないという選択をしているのがわかります。
ここに注目していただきたいのは、問題発生により市場としての環境は悪くなったけれど、そこから逃げ出す気はさらさらない、これまで同様に、あるいはこれまで以上に中国を重視している、という企業の考え方です。
こうした政治的対立の中においても経済的に中国との関わりを強めようとしている企業のマインドを、政治がどう受け止めるのか、そしてどう行動するのかが問われていると言えるでしょう。また、こうした日中間の対立を作ってしまった責任にどう迫るのか、それも問われているのではないでしょうか。

次に3面です。「新興国弱さ露呈」、これもなかなかにセンセーショナルです。以前、第55話のバーナンキ・プットでお伝えしたように、米連邦準備理事会のバーナンキ議長は「そろそろ輪転機を普通の状態に戻しますよ、資金を過剰に供給するのを止めますよ」というメッセージを送った訳です。さて、この影響は今世界中に拡大しつつあります。「そろそろ」が近いという観測があるからです。そうなりますと、世界中に廻っている余剰資金が引き上げられるということになります。
こうした場合、自国の経済を外資に依存している国は辛くなります。特に、第51話で触れたように、経常収支が赤字になると、それを埋めるために海外から借金をする、海外から投資を入れる、海外から援助を受ける、そういったことでお金を導入することになります。こうした海外からの借金、投資、援助などが引き上げられたらどうなるのか、ということですね。人間の体に置き換えてみますと、輸血で命を維持している人に輸血を止めるようなもので、体の中の血液が足らなくなれば、それは危ないでしょう。
これが今、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカ、ブラジル、タイ、マレーシアなどで起こりはじめているのです。この影響は国によって違いますが、通貨が安くなることで輸入代金がかさんで物価が上がりはじめている国、国債や株が海外の投資家へ依存しているために相場の下落が起こりはじめている国、いずれにしても経済の減速は避けられないという現状にあるようです。

皆さんも中小企業や小規模事業者の経営が、こうした海外市場の動向に左右される危険性をよく認識していただき、こうした記事にまずは関心を持とう、こうした記事から何を得るのか、とお考えいただければと思います。

C「読者からの質問⑫~~需要があるのに、供給されない不思議な現象②~」

Q:横浜の待機児童の話を例に社会福祉の分野から見ても規制緩和は有効な一面があるのですね(第30話)。また「需要があるのに、供給されない不思議な現象」のお話も大変興味あります。次回はこの分野について深堀りしたお話があれば面白いと思います

A:前回と引き続き、規制とビジネスチャンスのお話を差し上げたいと思います。前回、後発薬のお話をいたしましたが、まさに今の日本でこの後発薬を大々的に取り入れようとしている地方自治体があります。
今の日本の医療費は年間36兆円を越え、なおかつ毎年3%程度増加の一途を辿っています。医療費は国民皆保険の仕組みの中で、私たちが保険料として納めていますが、近年ではそれでは間に合わず、税金もかなり投入されています。36兆円の中身を見ますと、税金は13兆5千億円(37.5%)、うち国は9兆1千億円(25.3%)、市町村は4兆4千億円(12.1%)。保険料は17兆5千億円(48.6%)、うち会社負担は7兆3千億円(20.3%)、本人負担は10兆2千億円(28.3%)。また、患者負担は5兆円(13.9%)となっています。要するに、私たちの国民皆保険的な負担が48.6%、患者負担が13.9%、会社が20.3%(雇用されている場合)、市町村が12.1%(雇用されていない場合)、国が25.3%ですから、ざっと税金で3分の1を負担していることになります。
また、会社が負担しない健康保険の場合(雇用されていない人が対象、国民健康保険)、その会計は市町村ごとになっていますので、市町村ごとに発生する医療費の額にばらつきがある以上、保険料も市町村ごとに違うことになります。例えば、全国平均額は年間32万5千円ですが、大阪府寝屋川市の50万4千円で、北海道喜茂別町の50万3千円、福岡県矢部村の49万円。一方低いところでは東京都青ケ島村の14万円。続いて神奈川県開成町の16万円で、高いところと低いところでは3倍以上の格差があることになります。どうして高くなるかと言えば、医者にかかりやすい高齢者が多い、雇用されていない人が増加している、保険料を支払えない人が少なくない、健康維持のための対策を講じていない、といった理由が考えられます。そうしますと、保険料をどんどん上げるか、あるいは市町村の税金を投入して保険料を上げずに済ませるかの二者選択を市町村では迫られることになります。これは「究極の選択」です。保険料をどんどん上げれば払えない住民が増えるでしょうし、住民の家計を圧迫することにもなります。かといって、税金を投入すれば、他の公共サービスを下げなければ市町村が財政危機に陥ります。
こうした際の解決策は、誰が考えてもわかることですが、医療費そのものを下げるしかありません。そうしますと、安い後発薬を使っていただき、せめて薬代だけでも減らすのは当然の選択と言えますが、これが簡単ではありません。まず、医療費の総額が減れば、医療関係者の取り分は間違いなく減ることになります。医者、薬局、製薬会社ですね。次に、後発薬の認知は進んでいないので、成分も効き目も一緒と説明しても、安いから効かないと考える人がまだまだたくさんいるのです。次に、医療費が増大しても気にしない、どうせ自分が負担するのは自己負担の2割だから、と税金での迂回的な負担を思いつかない人が多いのです。
呉市は年間の医療費が全国の1.5倍、年々拡大する市負担額は呉市の財政を危機的な状況に追い込もうとしていました。そこで後発薬を、ということになったのです。具体的には、医療機関から提出された診療報酬明細書(レセプト)の病名や薬剤情報を電子データ化するシステムを利用して、該当する後発薬があるかどうかをチェックし、薬を切り替えた場合の削減額が大きい人に、目安の金額を示した通知書を送付することにしたのです。あなたが後発薬を使えばこれだけ薬代が安くなりますよ、と教える訳ですね。そして、後発薬の利用を望む人は、医師や薬剤師に相談のうえ、薬局で切り替えてもらうという仕組みです。その多くは高血圧などの慢性疾患で毎日服薬している人が想定されますが、これまでに通知書を送った人たちの中には、毎月の自己負担を8千円以上少なくできるケースも出てきているそうです。市全体では最初の年でも4,500万円、次の年には8,800万円も医療費が削減できたそうです。
さて、問題は「当たり前とも言える解決策を呉市が行い、それが全国では稀なケースであった」ということです。どうして稀なのか、それはこうした解決策を阻害している何らかの原因があるからだ、ということです。こうした阻害要因も一種の「規制」と言えるのではないでしょうか。

C「読者からの質問⑪~需要があるのに、供給されない不思議な現象①~」

Q:横浜の待機児童の話を例に社会福祉の分野から見ても規制緩和は有効な一面があるのですね(第30話)。また「需要があるのに、供給されない不思議な現象」のお話も大変興味あります。次回はこの分野について深堀りしたお話があれば面白いと思います

A:基本的には需要があれば供給されるものです。それが自由主義経済というものが優れている、と経済学者が主張するところです。これに対して、社会主義経済は基本的に計画経済ですから、計画というものがすべての需要を把握し、分析することが難しい以上、往々にして需要があっても供給されない、あるいは需要が無くても供給されるという現象が起きます。
しかし、自由主義経済でも時には需要があるのに供給されない現象が起こります。例えば、江戸時代、江戸や大阪の米問屋が米の値段を吊り上げるために米を売らない、それを仲間を組んでやる、そういった時代劇がよくあります。これなどは「私的な」一種の規制のようなものと言えるでしょう。こうした私的な規制行為を防ぐために近年、独占禁止法などの法律が整えられ、一部の力を持った人たちの恣意的な行いを取り締まるようになったと言えるでしょう。
しかし、現代の日本においては「公的な」規制がたくさん存在しています。例えば、農地を企業が取得することは大変困難です。たとえ使われていない耕作放棄地がいくらたくさんあったとしても、それを企業が取得し、農地として再利用することは事実上できないとのです。通常の土地の売買と違って、市街地以外で農地を購入するには、農地法上の許可が必要となります。農地を農地として利用する場合には、農地法第3条の許可が必要となります。ただし、農家資格が無ければ許可を得ることは事実上できません。この農家資格を企業が得ることは、農業生産法人という別な会社を作らないとできません。しかも農業生産法人として認められるためには、農業生産法人の業務執行役員(実質的な経営者)の過半数が農業に常時従事する構成員でなければならない、といった数々の制限がありますので、実質的には企業がその影響力を行使できる農業生産法人にはならない、即ち企業として農業に参加するメリットはかなり制限されているのが現実です。もちろん、こうした規制の背景には、農地という貴重な国の財産を企業の営利目的で左右させていいのかとか、戦前のように大地主が実際に農業へ従事する人たちを支配するようになっていいのとか、さまざまな考え方があります。が、いずれにしても「未利用な農地がある」中で「農地を利用したい企業はそれを取得して利用することができない」という規制が存在することに変わりはないのです。
また、こういう事例もあります。それは「後発薬」という存在です。薬は特許で守られていますが、開発してから一定の時間が経過すると特許は無効になりますので、同じ製法で同じ薬を他の製薬会社が作ることができます。当然ですが開発コストがかからないので後発薬は安いことになります。そうしますと、後発薬をたくさん使うようになれば医療費はかなり抑制できるのですが、日本の場合はなかなかそうならないのです(日本20%、アメリカ71%、イギリス65%)。それは、日本の薬は医者が処方し(医療行為として)、その処方箋で指定された薬を薬局で買う、というスタイルがですが、医者は後発薬を勧めたがりません。日本の医療制度は国民皆保険という制度で支えられています。そして、医者(医療従事者を含めて)と薬局と製薬会社は、国民が負担している保険料と、それを補う税金の中からそれぞれの取り分を取っていると言ってよいでしょう。そうしますと、安い薬を使っても、医者も薬局も製薬会社もあまり大きなメリットは無い、であればこれまでのように特許で守られた薬を使うことに流れても不思議はありません。保険料と税金を負担している国民という当事者以外は、誰も損をしない仕組みになっている、とも言えます。こうした問題も制度という仕組みがある種の規制になっていて、それが需要と供給の流れを阻害しているのではないかと思うのです。
「需要があるのに、供給されない不思議な現象」はなかなか難しく、深い問題ですので、次回以降、機会を捉えて、規制の矛盾についてもお話を差し上げたいと考えています。

C「読者からの質問⑩~私たちの生活と社会の関係~」

このコラムは読者とのキャッチボールも重要と位置づけており、その作業の中から①これから社会に参加する若者の皆さんに「働く」、あるいは「ビジネス」ということがどういったものなのかを知っていただく、②中小企業や小規模事業者で働くために重要な知識やスキル、あるいは社会人基礎力を身につけていただく、③中小企業や小規模事業者の海外進出において必要とされるさまざまな国や地域の情報や文化風土などの基盤的な知見を知っていただく、そうしたことを深堀したいと考えています。

Q:正直「私たちの生活と社会の関係」について勉強不足です。また、こうやって学ぶきっかけが少ないです(僕は幸いですが)。「私たちの生活と社会の関係」は今回の大きなテーマともなりますが、少しでも教えて欲しいです。
A:筆者の若い頃も、こうした雇用とか社会保障とか、そういう問題について教えていただける機会はほとんどありませんでした。
その結果、社会に出てから、一つ一つ、何かしら自分の周りで発生する事件のたびに経験的に学んでゆくしか方法がありませんでした。
しかし、現代社会ではこういう知識を得る手段が豊富に存在しています。
まず、その第一は、インターネット上にある無数とも言える情報です。例えば、ウィキペディア(Wikipedia)というサイトを見てみても、「百科事典を売る」というビジネスが不要になるほど(Encyclopedia Britannicaは1990年にはアメリカだけで12万セットも売れていたそうですが、とうとう2010年版で廃刊となりました)、無料で必要な情報を得るシステムとして、世界中に定着しています。
皆さんは最低限のITリテラシーをお持ちであれば、こうしたインターネット上での知識をいくらでも得ることができるのです。ただし、その信憑性には十分な注意が必要で、皆さんが既に学んだ帰納法的な考え方(第98話)をぜひ活かしてください。できるだけ多くの情報を見る中から仮説を立てるようにしていただければ、たとえその中に誤った情報があっても、そんなにおかしな結論には導かれないと思います。
第二は、立花隆でお知りになったように(第9話)、新聞を読むことです、特に日本経済新聞を、です。「教養のミニマムと教養のマキシマムというものを考えたときに、教養のミニマムというものは基本的には常識といっていいだろうと思います。では、具体的にその常識の内容として何を考えるかということですが、僕が、“現代の常識”のレベルとしてよく例に出すのは、日経新聞を初めのページから最後の文化欄までをちゃんと理解できる、これが現代人が持つべき知識の基本ラインである、という表現です。」という名言のとおり、ミニマムレベルのリベラル・アーツとして、新聞を読んで理解することは大変重要なことだと思います。
第三は、本を読むことです。より深い層まで思念をおよぼそうと思えば、インターネット上での情報や新聞だけでは限界があります。本を読むことは、その作者という存在と向き合うことだ、とお考えになり、それこそ作者と真正面からぶつかるくらいの気持ちで本と格闘されることです。それで、確実に皆さんの思念はより深まることができます。ただし、いわゆるハウツー本では意味がありません。Howではなく、Whyを考えるような本をぜひ探してください。どういった本を選べばよいのか、ですが、これは他人からの紹介もよし、新聞の書評もよし、自分の思い込みや思い付きだけではなく、他の視点からの意見もぜひ参考にしてください。ピーター・ドラッカーなどは、ぜひお勧めしたい作者です。
このように、現代社会では知識を得るための手段はかなりたくさんあるのです。が、問題は、皆さん自身が「知ろう」「知りたい」という気持ちを持てるかどうかです。そのためには、出会いを大切にするのと同じように(第6話、第16話)、人や知識とのつながりを常に意識していただければ、自ずとそういった機会に恵まれるでしょう。

C「MOOC」

ひとしきりスキル・トレーニングが続きましたので、中小企業や小規模事業者にとって重要なイノベーションを考えるヒントを一つお伝えしたいと思います。
それは、MOOC(Massive open online course)です。

皆さんもWBT(Web Based Training)とか、イーラーニング(e-learning)とかはお聞きになったことがおありだと思います。パソコンやコンピュータネットワークなどを利用して教育を行うことで、教室で学習を行う場合と比べて、遠隔地にも教育を提供できる点や、コンピュータならではの教材が利用できる点などが特徴です。
MOOCもその意味では同じようなもので、いわばオンライン講義と言いましょうか、ビデオ講義と言いましょうか、WEB上で無料参加が可能な大規模講義のことです。主にアメリカの大学で運営されていまして、基本的に無料で参加することができます。ビデオ講義を受けるだけでなく、確認のための試験問題などを受けることもできます。また、ユーザ・コミュニティーも用意されていますので、ユーザサイドのフィードバックがサプライヤーへ返るので、講義運営の効率も向上することが可能です。そのため、ユーザが多いほど効果的な運用が可能となる、Web2.0的な仕組みとなっています。

それのどこがイノベーション(innovation、新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造する変革)なんですか、と言われそうですが、WBTやイーラーニングは、要するに技術面に着目した概念ですが、MOOCは制度面に着目した、より社会的な概念と言うことができます。
具体的にその理念を申し上げますと、「コンピュータ技術を用いて中央集権化されていない“learning web”を構築し、多くの学生が参加可能な学習効率の高い教育システムを構築することで、“学校のない社会”を作る」ことなのです。ちょっとすごくないでしょうか。
そして、そのために1962年にスタンフォード大学は三つの目標を設定したのです。
① 学びたい人はいつでもどこでも学習リソースにアクセスすることができる。
② 学びたいと思っている人が何を知りたいかを共有することができる。
③ 公共の知識として広めたいと思っている知識を知りたい人に伝えることができる。
もちろん、1962年当時は夢物語としか思われませんでした。
しかし、半世紀の時の流れは、こうした理念や目標を現実のものとする技術革新を進めました。その結果、今では大変な数のユーザを抱える一大教育システムとして利用されています。

その一つはコーセラ(Coursera)で、スタンフォード大学を中心として62大学が参加し、コンピュータサイエンス、医療(ヘルス・ケア)、医学、生物学、社会・ネットワーク・情報学、人文学、社会科学、数学と統計学、経済学、金融学、経営学を提供し、世界の196ヶ国から200万に近いユーザが参加しています。今秋からは東京大学が参加することになっています。
もう一つはエデックス(edX)で、マサチューセッツ工科大学とハーバード大学を中心として構築されたもので、今年からは京都大学が参加することになっています。

いかがでしょうか、「新しい価値を創造する」という意味でのイノベーションのダイナミズムを感じていただけるでしょうか。中小企業や小規模事業者はとかく技術面の新しさに目を向けがちですが、そうではなく制度面、社会面の新しさを追求する、その中に市場を見出す、そういう道もあることに気づいていただければ幸いです。
そして、はなはだ残念なことに、日本の大学がこうしたシステムを構築する先導者にはなれない、かろうじて東大と京大が一参加者として登場するにすぎないという現実をご覧いただきたいと思うのです。

F「ファシリテーション・スキル⑤~NASAの例題②~」

前回からの引き続きになりますが、例えば「生きるために必要な」「移動するために必要な」「使い方がわからない」「使えない」というように区分して、必要な順番から区分して(サブ・イシュー的に分けて)15の品物を考えてゆくとしましょう。
そうしますと、違う観点での意見がさまざまに出されるでしょう。
例えば、「ピストルなんて使えないから要らない」という意見に対して、「宇宙人に攻撃されたらどうするの」とか、「チームで従わない人が出てきたらどうするのとか」、「要るかもしれない」という意見が出るかもしれません。
例えば、「磁石は方角を調べるのに絶対必要だ」という意見に対して、「月に磁力があるのでしょうか、磁力が無ければ磁石は使えないでしょう」という意見が出るかもしれません。
例えば、「宇宙食があれば粉ミルクは要らない」という意見に対して、「食べるものが無くなったら不安だから予備に持っていきたい」という意見が出るかもしれません。
そうしたさまざまな意見を戦わせる中から、区分された中での順番を考え、区分間での順番を考え、決められた時間の中で合意形成を導く、これがまさにファシリテーション・スキルそのものなのです。

それでは、正解を見てみましょう。
1 H.100ポンドの酸素タンク・・・生存に最も必要な用品である。
2 L.水5ガロン・・・脱水症状の水分補給に役立つ。
3 I.月面上用の星座図・・・道の方向性を決めるための主な手段。
4 B.宇宙食・・・体内エネルギー補給のよい手段。
5 O.太陽電池のFM受信送信機・・・母船との連絡のため。しかし近距離しか届かない。
6 C.50フィートのナイロンロープ・・・崖の高さを測るとか、怪我人を運ぶのに有効。
7 N.注射器の入った救急箱・・・ビタミン薬の注射は体力回復に有効。
8 D.パラシュート・・・太陽光線から自分を守るのに役立つ。
9 J.自動膨張の救命用ボート・・・二酸化炭素のボンベは前進するのに使えるかも。
10 M.照明弾・・・母船を見つけたときに遭難信号を送れる。
11 F.45口径のピストル・・・前進するのに有効な手段となり得るかもしれない。
12 G.粉末ミルク1ケース・・・宇宙食よりかさばる。
13 E.太陽熱利用の携帯用暖房・・・日陰でない限り必要ない。
14 K.方位磁石・・・月面では磁場が極地化していないので不要。
15 A.マッチ棒・・・火をつける酸素は無いので全く価値はない。

いかがでしょうか。
いくつか、基本的な知識が無いと考えつかないこともありますが、そうした知識もチームの中のメンバーが持っているかもしれないのです。

このように、多様な参加者からの合意形成には、多くのアイディアが出せる、打ち込みと意欲が増す、幅広い考え方や見方ができる、専門知識を共有化しあえる、仲間同士で支援できる、といった利点がありますので、多くの場合では優秀な個人が考えた結論よりも正解に近づくことができるのです。

それでは、チェック・リストです。
① スキルは「ファシリテーション・スキル」に集約されると言っても過言ではありません。
⇒言語化スキルをはじめとするさまざまなスキルを使いこなすことが必要だと認識していただければ十分です。
② もちろん、こうしたコラムを読むことで簡単に習得できるものではなく、ここでは内容と重要性を十分に理解することがポイントです。今後のビジネスの現場で思い出し、この考え方を少しずつ適用できるような素地を作ることが目標となります。
⇒これは会議のたびに意識していただけると習得が容易だと思います。

さて、これで言語化スキル4回、コミュニケーション・スキル2回、プレゼンテーション・スキル4回、論理的思考力6回、ネゴシエーション・スキル2回、ミーティング・マネージメント2回、ファシリテーション・スキル5回と、合計25回にわたりスキルのお話をしてまいりました。
このいずれも皆さんが中小企業や小規模事業者で働く際に、あるいは社会で活動する際にとても有用なものだと思います。そして、上達するコツはコンピテンシーと同様に「意識して行動する」ことなのです。

F「ファシリテーション・スキル④~NASAの例題①~」

NASA(アメリカ航空宇宙局、National Aeronautics and Space Administration)という政府機関がアメリカにあります。もっぱら宇宙開発を進めるところで、日本人もかなりの数が宇宙飛行士になるためにお世話になっています。
このNASAで人材教育の一環で行っているのがコンセンサスゲームです。これは、チーム全体でディスカッションし、合意形成された回答の方が、個人で考えた回答より正しい結果が出るという体験を通じて、議論そのものとそこできちんと合意形成していくことの重要性(要するにファシリテーション)を理解させるものです。
砂漠とか宇宙とか、題材はさまざまあるのですが、今回は宇宙バージョンでの例題を解きながら、議論と合意形成の模擬体験をしてみたいと思います。

例題は、次のとおりです。
あなたたちの乗った宇宙船が、月で不時着してしまいました。あなたたちは、200マイル離れた陽のあたっている月面上にある母船とランデブーする予定でした。しかし、荒っぽい着陸であなたたちの船は壊れ、船の設備もほとんど壊れてしまいました。残されたものは15品だけです。
あなたたちの生死は母船に戻れるかどうかにかかっています。陽のあたっている月面上での200マイルの旅のために最も重要な品目を選ばなければなりません。あなたたちの仕事は、これら15の品目を生存するための重要度順にランク付けすることです。
一番重要なものに1、二番目に2・・・のようにして15までの数字をふってください。
A マッチ棒
B 宇宙食
C 50フィートのナイロンロープ
D パラシュート
E 太陽熱利用の携帯用暖房
F 45口径のピストル
G 粉末ミルク1ケース
H 100ポンドの酸素タンク
I 月面上用の星座図
J 自動膨張の救命用ボート
K 方位磁石
L 水5ガロン
M 照明弾
N 注射器の入った救急箱
O 太陽電池のFM受信送信機

まずは、ご自分で考えて順番付けをしていただけますか。
話は簡単です。
① あなたがたは複数の人間(宇宙飛行士)によるチームである。
② 月面上の母船へ辿りつかないと生き残れない。
③ 持って行けるものは15の品物だけ。
④ 15の品物をどう使って母船まで辿りつくかが問われている。

正解をご紹介する前に、これをチームとしてディスカッションし、ファシリテーション・スキルを活用したらどうなるか、です。
まずは、議長と書記と時計係を決めましょう。そして、議長のリードのもとにファシリテーション・スキルを十分発揮しながら議論し、合意に至りましょう。
議論の進め方にはいくつかあるでしょう。
上から順に、例えば「生きるために必要な」「移動するために必要な」「使い方がわからない」「使えない」というように区分して、必要な順番から、というようにですが、やはりお勧めはイシュー分析的に、でしょうから、区分して(サブ・イシュー的に分けて)、がよろしいでしょう。
そうしますと、例えば「生きるために必要な」ものを探すことからはじまりますと、宇宙食、粉ミルク、酸素、水、この四つがおそらく選ばれて、その中で順番をつけるのでしょう。
「移動するために必要な」ものがその次になるのでしょうか。ロープ、星座図、磁石、照明弾、FMあたりでしょうか。
「使えない」ものとなると、マッチ、ピストルあたりでしょうか。
そうしますと、「使い方がわからない」ものが、パラシュート、携帯暖房、ボート、救急箱あたりでしょうか。

次回はこの続きをしたいと思います。

F「ファシリテーション・スキル③~守るべきルール②~」

ファシリテーションのためのルールの続きとなります。
第四は、参加者から意見を引き出すためには、上手な促し方をする必要があります。
例えば、「問題の解決方法を提案できる人はいませんか?」、これは悪い質問です。Yes/No Questionでは引き出すことが難しいのです。
「この問題を解決するには、どんな方法があると思いますか?」、これですとOpen Questionなので、答えやすくなるでしょう。
「花子さん、何か言いたいことはありませんか?」、これも最悪ですね、花子さんはすぐに「ありません」と言いそうです。
「花子さん、この件についてどう思いますか?」、これなら引っ込み思案の花子さんも何か言ってくれるかもしれません。
このように、促す際はOpen Questionと覚えてください。

第五は、論理的思考力を活用することです。
① 仮説思考とロジックによる構造化:仮説を立て、単純かつ定量的に、“課題を構造化”してください。
② MECE(モレなく、ダブりなく):課題を、少しのモレもなく、ダブりもなく、完全にカバーするよう表現してください。
③ イシュー分析:錯綜した問題の真の問題点や重要度を明らかにしてください。
④ Yes/No Question:結論に辿りつく際には、一つ一つの課題ごとにYesかNoを見分けないといけません。
⑤ 帰納法:複数の情報(傍証)から一つの仮説を立てるように努めてください。

第六は、議論をする際に頭に入れておいていただきたい注意点です。原典は「会議が絶対うまくいく法:マイケル・ドイル&デイヴィッド・ストラウス(日本経済新聞社)」に拠ります。
① 自分の考えを通すために、他人を言い負かそうとしないでください。自分の考えはできる限り明確に、論理的に説明してください。自分のアイデアを弁護する前に、ほかの人の反応をよく聞いてください。
② 議論が行き詰まったときに、誰かの意見を採用し、誰かの意見を捨てなくてはいけないと決めてかからないでください。代わりに、全員が納得するような方法が他に無いか、と考えてください。
③ 衝突を避けて調和を保つ目的で、自分の意見を変えてはいけません。あまりにも簡単に、短時間でみんなの意見がまとまったときには、「どこかおかしい」と疑ってください。みんながその案をなぜ受け入れたのか、をよく考えて、客観的かつ論理的にみて納得できるときにだけ、自分の意見を変えるように心がけてください。
④ 仲間内の衝突を避けようとして、多数決、平均をとる、交渉する、などのテクニックを使わないでください。反対意見を述べていた人が最終的に合意したら、後でその人に花を持たすような工夫をしなくては、などと考えないでください。
⑤ 意見の違いは自然のことで、必ずあると考えてください。さまざまに異なる意見を知るためには、全員が発言することが必要なのです。反対意見のおかげで、視野が広がり、情報が増え、チームとして最善の解決案に到達することができるのです。

以上、六つのルールをお伝えいたしました。次回は、実際に例題を解く中からファシリテーション・スキルを探ってみたいと思います。

F「ファシリテーション・スキル②~守るべきルール①~」

ファシリテーションを言語化すると、「異なる能力を持つ個々の参加者からなる集団において、知識の衝突を奨励し、場を管理し、新しい知識の創造を促すこと。背後に、個人の力より、異なる複数の力を寄せ集めた方が、よりよいものが生まれるという信念がある。」、前回そのように規定しました。
言い方を変えますと、異なる考え方の多様な参加者が意見を戦わせ、その中から合意を見出すことで、一人の優れた人間が考えた結論よりもより優れた結論を導く、ということにほかなりません。

このためには、参加者がいくつかの約束を守る必要があります。
その第一は、参加者はチームを形成しているのであって、単なるグループではない、という自覚を持つことです。
グループは愛好会やサークルのような親睦のための集団です。しかし、皆さんがこれから仕事をする上で参加するのはチームです。何らかの目的のために共同で活動し、その結果に対して共同で責任を持たなければいけないのです。ですので、「グループではない」と認識してください。一昔前、グループ制という組織改革が公務員の社会ではもてはやされました。縦割りの上下社会を脱却するための処方箋として考えられたのでしょう。しかし、ほとんどの場合は失敗に終わったようです。筆者が失敗の一因だと思うのは、グループというネーミングにあります。親睦団体を組織の中に作っては失敗するでしょう。何せ、結果に対する共同の責任が無ければ、誰も真剣になどならないものです。

第二は、そうしたチームの参加者が等しく活発に意見を述べるとは限りません。ですから、できるだけ他人の意見を引き出すような言葉づかいを心がけてください。具体的には、以下のとおりです。原典は「ファシリテーター型リーダーの時代:フラン・リース(プレジデント社)」に拠ります。
① 質問をする:どんどん質問しましょう。
② 掘り下げる:表面的な意見の深層を探りましょう。
③ わかりやすく言い換える:言語化スキルの基本です。
④ 質問や発言の方向を転換する:煮詰まってきたらチェンジオブペースです。
⑤ すでに出た意見やアイデアを振り返る:人間は往々にして忘れます。
⑥ 応援する:合意を形成する過程として有効です。
⑦ 発言の少ないメンバーを引き入れる:壁の花を忘れてはいけません。
⑧ 異なる意見を歓迎する:違った視点は常に有効です。
⑨ 要約する:これも言語化スキルの基本です。
⑩ 橋渡しをする:合意を形成する過程として有効です。

第三は、結論を見出すための会議ですので、その過程を円滑にするために、次の役割を持つ人を選んでください。
① 議長:チームが結論へ向けた集中できるよう場を管理してください。ただし、自分の結論を参加者へ押し付けるのであれば有害無益です。あくまでも、合意を形成するために参加者を導いてください。
② 書記:意見を可視化するために書いて参加者に見えるようにすることは重要です。
③ 時計係:会議の時間を管理することも重要です。結論を見出すために議論を促進するように時間を刻んで伝えてください。ただし、あと5分延長すればきちんと合意できる、と見定められるのであれば、延長を恐れてはいけません。

次回も引き続きファシリテーションのためのルールをお伝えしたいと思います。

F「ファシリテーション・スキル①~新しい知識の創造~」

ファシリテーション(facilitation)、あまり聞きなれない言葉かもしれませんが、日本ファシリテーション協会(http://www.faj.or.jp/)というNPO法人があるくらい、現代社会では取り上げられることの多い考え方です。もともとは、物事を容易にする、簡易化、助成、助長といった意味ですが、多様な参加者が存在する中で、合意形成や相互理解を進めるために、議論の活性化や協働作業を促すなど、さまざまな手立てを講じることを指しています。日本ファシリテーション協会の定義に従えば、「人々の活動が容易になるように支援し、うまくことが運ぶように舵取りすること」となります。
今回のセッションでは、次のように言語化したいと思います。
「異なる能力を持つ個々の参加者からなる集団において、知識の衝突を奨励し、場を管理し、新しい知識の創造を促すこと。背後に、個人の力より、異なる複数の力を寄せ集めた方が、よりよいものが生まれるという信念がある。」
いかがでしょうか、イメージはできましたでしょうか。

こうしたファシリテーション・スキルが脚光を浴びたのは、それほど昔の話ではありません。アメリカにとって悪夢の時代と呼ばれる1970年代、アメリカ経済は疲弊し、日本をはじめとする新興国の攻勢を激しく受けていました。インフレの進行、失業率の増大、企業においても行き過ぎた個人主義は非効率な経営を招いていました。同時期、「ジャパン・アズ・ナンバーワン(Japan as Number One)」という本が大ブームとなり、「ジャパニーズ・マネジメントは世界一である。もはやアメリカから学ぶものはない。」と日本の経営者が豪語する、そういう時代でした。
そうした中、レーガン大統領が“レーガノミクス”という大胆な経済施策を展開し、アメリカ経済は復活の道を歩みはじめるのですが、それと時を同じくして多くの企業が積極的に導入したのがファシリテーション・スキルだったのです。これまでの行き過ぎた個人主義を修正し、かといって日本のような家族主義、終身雇用にも与せず、アメリカ流の経営スキルとして確立されたのです。
そして、日本においても「失われた20年」を過ぎ、企業経営のイノベーションが深刻に求められるようになった21世紀に入り、ファシリテーション・スキルが大きく評価され、今やこの種の研修には事欠かないほどにもてはやされているのです。

それでは、先にチェック・リストから見ることにしましょう。
① スキルは「ファシリテーション・スキル」に集約されると言っても過言ではありません。
② もちろん、こうしたコラムを読むことで簡単に習得できるものではなく、ここでは内容と重要性を十分に理解することがポイントです。今後のビジネスの現場で思い出し、この考え方を少しずつ適用できるような素地を作ることが目標となります。
このように、今回の一連のスキルに関するセッションで皆さんが学んださまざまなスキルをすべて取りまとめたものがファシリテーション・スキルだ、と考えてください。ですから、言語化スキル、コミュニケーション・スキル、プレゼンテーション・スキル、ネゴシエーション・スキル、論理的思考力、ミーティング・マネージメントをフルに動員することではじめてファシリテーション・スキルに近づくことができるのです。
従って、簡単に身に付くものではありません。しかし、この段階でその存在を知り、かつ若干その存在に触れ、体感することで、これから先、実際に意識して使ってみる、それを繰り返すことで段々と習得できると思います。

F「ミーティング・マネージメント②~ミーティングのルール~」

それでは、コンセンサスに基づいて会議を行うとして、その際に守っていただきたいいくつかのルールをご説明いたします。
第一は、会議の目的を明確にすることです。何となくとか、定例だからとか、そういった曖昧な目的の会議は時間の無駄です。
第二は、議事次第を作ってください。会議の目的が明確であれば、当然それは文章化され、あらかじめ参加者へ配布されることになります。
第三は、開始時間を守ることです。〇時〇分に開始する、と決めたら、必ずその時間には参加者全員が揃っていなければなりません。往々にして起こることですが、会議の重要人物が遅れて、ほかのメンバーがその出席を待っている、というのが最悪なのです。
第四は、会議を開始する直前に、会議の目的を再度明確にし、参加者に確認させることです。「あなた方は何のためにここに集まっているのか」、それをはっきりさせるのです。
第五は、会議のルールを設定することです。例えば、会議中は携帯電話を切るとか、会議中は離席しないとか、会議では必ず自分の意見を言うとか、そういったルールを設定し、参加者全員に確認させることです。
第六は、会議での発言を記録することです。そのために「書記」を配置することをお勧めします。
第七は、会議では言語化スキルとコミュニケーション・スキルをフルに発揮してください。簡潔に、過不足なく、相手があなたの言いたいことを理解し、再現できるように発言を心がけてください。また、自分の思いを(感情も含めて)、正直に伝えるとよろしいでしょう。
第八は、会議の時間管理をしてください。そのために「時計係」を配置することをお勧めします。
第九は、会議が終わった際に、何が決まって、何が決まらなくて、決まらなかったことはどう決めるのかを、参加者全員で確認してください。
最後に、可能であれば会議の評価をするとなおよろしいでしょう。

この十のルールを守っていただければ、会議の生産性は格段に向上しますが、特に筆者が重要だと思うのは、次の四つです。
① 会議の目的を明確にする。
② 会議を開始する直前に、会議の目的を再度明確にし、参加者に確認させる。
③ 会議では言語化スキルとコミュニケーション・スキルをフルに発揮する。
④ 会議が終わった際に、何が決まって、何が決まらなくて、決まらなかったことはどう決めるのかを、参加者全員で確認する。
この四つをきちんと守るだけでも、あなた方の会議への取り組みは大きく変わることになるでしょう。
それでは、チェック・リストです。
① 「ミーティング・マネージメント」は、どうすればよいかを知れば、それをそのまま実際に応用できるため「スキル」という言葉を使っていません。このことがこのセッションのポイントです。
⇒前回お伝えしたコンセンサス重視の姿勢と、今回の十のルールを覚えて、それを使えばよいのです。

F「ネゴシエーション・スキル②~原則立脚型での合意~」

例題:図書館で二人の男性が言い争っています。一人は窓を開けたいし、もう一人は閉めたいのです。二人はどれだけ窓を開けておくか、さっきから言い争っていますが、なかなか埒(らち)があきません。そこへ図書館の職員が入ってきました。職員は、一方の男性になぜ窓を開けたいか尋ねました。「新鮮な空気が欲しいからです」と彼は答えました。次にもう一人になぜ閉めたいか尋ねますと、「風にあたりたくないんですよ」という答えでした。あなたが図書館の職員だとしたら、どう対処しますか?

この例題にも正解はありません。要は、当事者である二人が納得できる合意点が見つかればよいのです。その意味では、前回お伝えしたように、たくさんの選択肢を用意することが重要です。例えば、①その場の窓は閉め、奥の窓を開ける、②その場の窓は開け、風にあたりたくない男性は窓の開いていない場所に移動させる、③その場の窓は閉め、風にあたりたい男性は窓の開いている場所に移動させる、④二人とも周りの迷惑なので退館させる、⑤時間を決めて窓を開閉する、といろいろに考えられるでしょう。

では、次に立場駆引き型のネゴシエーションがどういったものか見てみましょう。これはハード型とソフト型に分かれます。
ハード型は、私たちが交渉上手と思いがちな「強面(こわもて)」の姿勢です。自分の主張は何としても押し通す、そういう方がいらっしゃいます。基本的な姿勢は、相手は敵対者である、目的は勝利にある、友好関係の条件として譲歩を迫る、人に対しても問題に対しても強硬に対処する、相手を疑う、自分の立場は変えない、脅かす、最低線を隠す、和解の対価として一方的に有利な条件を強要する、自分が受け入れられるものを探す、自分の立場を強調する、意志をぶつけ合って勝とうとする、こんな具合ですね。
一方のソフト型は、相手の主張を受け入れることで問題を解決しようとします。基本的な姿勢は、相手は友人である、目的は合意にある、友好関係を深めるために譲歩する、人に対しても問題に対しても柔軟である、相手を信頼する、自分の立場を簡単に変える、提案する、最低線を明かす、和解を成立させるためには一方的に不利な条件も受容する、相手が受け入れるのを待つ、合意を強調する、意志のぶつかり合いを避けようとする、こんな具合ですね。
このいずれも好ましいことではなく、あくまでも相手は問題の解決者である、目的は効果的かつ友好裏に賢明な結果をもたらすことである、人に対しては柔軟に問題に対しては強硬に対処する、信頼する信頼しないとは無関係に対処する、利害を探る、最低線を出すやりかたを避ける、双方にとって有利な選択肢を考え出す、意志とは無関係な客観的基準に基づいて結果を出す、という原則立脚型での合意をお勧めします。

それでは、もう一つ例題を出し、それを考えた後でスキル・チェックをお知らせいたします。
例題:石川県では「九谷焼」という磁器が有名です。独特の九谷五彩という絵付けと、独特の青白い地肌(白磁)が特徴です。しかし、近年は日本のほかの産地で作られた白磁に、九谷で「絵付け」をした磁器がたくさん作られており、九谷焼の売り上げ全体の3分の2に達しています。
そこで、九谷焼と言うブランドをどこまで許すのか、という議論が起きています。
製作している職人は、生産地表示が消費者から求められる今日、地元の土から作った白磁に、地元で絵付けしたものに限定すべき、という意見です。
販売する商人は、それでは値段も高いし、取り扱える商品も限られるので、白磁はどこのものであっても、地元で絵付けしたものは全て九谷焼と認めるべき、という意見です。
さて、あなたはどのように問題を解決しますか。

これもさまざまな選択肢が可能です。その中でもお勧めするとすれば、①“九谷焼”は地元の土から作った白磁に地元で絵付けしたものに限定したブランドとし、ほかの産地で作られた白磁に九谷で絵付けをしたものには別のブランドをつける、例えば“Kutani”とか“新九谷”とか、②結論を出すために陶磁器の専門家や消費者などによる第三者機関を設ける、といった選択肢はなかなか有力ではないかと思います。

それでは、チェック・リストです。
①真髄は、「人」と「問題」を分離すること。⇒〇〇さんが言うことは信じられないとか、△△さんのやることには間違いが無いとか、人と問題を一緒にしていけません。それがわかれば十分です。
②ネゴシエーションの実際の場で、「原則立脚型」アプローチの“心”を思い出すこと。⇒ついつい立場駆引き型になりがちです。双方にとって有利な選択肢を考え出すように努めましょう。そして、たくさんの選択肢を用意し、客観的な基準に沿って進めましょう。それで大丈夫です。

F「ミーティング・マネージメント①~意思決定の方法~」

ミーティング・マネージメント、要するに会議の生産性を高め、成功に導くためにはどうしたらよいか、ということです。皆さんも社会に出れば、驚くほどの数の会議をこなさないといけなくなります。そうした会議の生産性を向上させるのは重要な問題です。

順番は逆になりますが、あらかじめチェック・リストを見てみましょう。
① 「ミーティング・マネージメント」は、どうすればよいかを知れば、それをそのまま実際に応用できるため「スキル」という言葉を使っていません。このことがこのセッションのポイントです。
ということでおわかりのように、スキルと言うよりは知識に近いものなので、これからお伝えするルールと言いますか、基準と言いますか、それを実際の会議で使っていただければよろしいのです。

その前に、私たちが参加する会議の性質を少し考えてみましょう。その際に重要なのは、会議の結論をどのように決めるのか、ということです。
会議において意思決定の方法を決定することは(しばしば見過ごされる)重要な要素です。
「何を決定するか」は誰もが注目するが、「どのように決定するか」はあまり議論されません。この結果、決定された後に会議の参加者はあいまいな感情や疑問、あるいは不快感を持つ傾向があります。どのような資格で自分が会議に参加したのか、それが明確ではないからです。

会議における意思決定の方法には三つあります。
第一の方法は、多数決です。参加者全員が一票を持ち、多数の賛成で結論は導かれます。
しかし、この方法にはリスクが残ります。それは、少数意見が無視されがちで、少数の参加者が有意義な考え方を持っていても、それが結論に反映されない、ということです。
俗に言う「数の暴力」が起きる訳です。

第二の方法は、参加者の意見を集約し、重要な立場の人が決定するものです。実は、私たちの社会では一番多くこれが行われます。筆者も公務員時代、組織の意思決定を司る会議の書記をやっていましたが(通常それを庁議と言います)、まさにこの方法です。部長以上の幹部職員が一堂に会して議論をしますが、さまざまな意見を聞いたうえで最終的には市長さんが決定します。この方法には大きなリスクがあります。それは、重要な立場の人が考えていることを参加者が探ろうとし、自分の意見を述べるのではなく、重要な立場の人が喜びそうな意見を言うようになることです。間違っても、重要な立場の人が嫌がるような意見は言いません。
その結果、会議は会議ではなく、一種のセレモニーになってしまうのです。

第三の方法は、コンセンサス(合意)による意思決定です。この方法を取ることがお勧めなのですが、ただし、これにもリスクが無い訳ではありません。それは、合意するために妥協する参加者が出てくることです。「私さえ反対しなければいいのだから」という考え方に陥ってしまい、自分の意見を押し殺してしまうのです。
ですから、会議では参加者一人一人が自分の意見を徹底的に主張することからスタートしてください。そして、共通点と相違点を明確に認識し、参加者全員が納得できる合意点を探るように努力することによって、会議の成果は格段と向上できるのです。

F「ネゴシエーション・スキル①~人と問題を分離する~」

次は、ネゴシエーション・スキルです。
ネゴシエーションとかネゴシエーターとか言いますと、皆さんはユースケ・サンタマリアの「交渉人 真下正義」とか、サミュエル・L・ジャクソンの「交渉人」とか、何かそういった緊迫した場面で問題を解決に導く、ちょっとしたヒーローを思い出されるかもしれません。また、「交渉相手に対して自分の主張を通す」という攻撃的なイメージをお持ちかもしれません。
しかし、このスキルはごく日常的に必要とされ、さまざまな局面で使われることになります。また、どちらかと言えば、交渉相手とともに課題を解決するという性格を持っています。それは、ネゴシエーションは相手と自分の間に対立する利害と共通する利害があり、それらに関する合意を導くためのスキルだからです。従って、ほとんどの物事には相手があり、かつ利害は対立することも共通することもあるのですから、実際には皆さんは日常的にネゴシエーションを行っている(意識的か無意識的かは別として)、ということになります。
この種の合意形成が日常的に求められるアメリカでは(多人種・多民族・多宗教ですから)、かなり以前からネゴシエーションを科学の領域で扱い、さまざまな研究が進められてきました。今回のセッションは、その多くをハーバード大学交渉学研究所の「新版ハーバード流交渉術(阪急コミュニケーションズ)」から得ています。
そこでの重要な考え方は、合意形成に至るためにはできるだけ共通の利益を見出し、利害が衝突する場合は、どちらの側の意志からも独立した公正な基準に基づいて結論を出す、ということです。

そのために踏まえなければならないことは、「立場駆引き型」から「原則立脚型」へスタンスを変えることであり、そのための四つの姿勢を大切にすることです。
それでは、原則立脚型の四つの姿勢をお伝えいたします。
第一は、人と問題を分離することです。とかく、私たちは〇〇さんが言うことは信じられないとか、△△さんのやることには間違いが無いとか、人と問題を一緒にしがちです。そうなりますと、いくら正しいことを〇〇さんが言っていても、〇〇さんは信じられない、の一言で片づけられてしまいます。まずは、これを止めましょう、ということです。誰が言ったかではなく、何を言ったのか、に注目すべきなのです。
第二は、立場ではなく利害に集中することです。とかく、私たちは面子とか地位とかを気にします。ですので、目下のものが言ったことを丸呑みしたのでは自分の面子が丸つぶれになる、なんてことになるのです。面子とか地位とか立場は何の関係も無い、重要なことは利害(合意によって利益を得ること)にあるのです。
第三は、合意する前にたくさんの選択肢を用意することです。いろいろな可能性を並べる中から最大の利害につながる道を選べばよいのです。しかし、私たちは勢いとか成り行きとかで合意してしまうことがありますが、さすがにそれはまずいでしょう。
第四は、判断の基準は客観的なものにすることです。ですから、数字にするとか、目に見える基準を使うことをお勧めします。直感とか思い込みとかは避けてください。

こうした四つの姿勢を持つことが原則立脚型ということになりますが、それでは立場駆引き型はどんなものでしょうか。そのお話は次回にさせていただきます。
その前に、次回までに回答をいただく例題を差し上げたいと思います。回答の例示は次回とさせていただきます。
例題:図書館で二人の男性が言い争っています。一人は窓を開けたいし、もう一人は閉めたいのです。二人はどれだけ窓を開けておくか、さっきから言い争っていますが、なかなか埒(らち)があきません。そこへ図書館の職員が入ってきました。職員は、一方の男性になぜ窓を開けたいか尋ねました。「新鮮な空気が欲しいからです」と彼は答えました。次にもう一人になぜ閉めたいか尋ねますと、「風にあたりたくないんですよ」という答えでした。あなたが図書館の職員だとしたら、どう対処しますか?

F「論理的思考力⑥~無料サイトの紹介~」

例題:
HP作成を主要なビジネスとする個人事業主であるあなたに、別所温泉協会から、温泉街のHPを作り直したいとの問い合わせを受けました。明後日の打ち合わせに行く前に、温泉協会のイシューである「温泉街のHPを作り直すべきかどうか」というYes/No Questionを構成する複数のサブ・イシューを作成し、そのすべてにYesという回答を引き出せるよう、プレゼンテーションを用意してください。回答していただくのは、複数のサブ・イシューであり、それに対するプレゼンテーションの項目です。例えば、「作り直す費用は期待する効果に見合っているか」というサブ・イシューを作成するとすれば、「費用は市場価格よりも格安です」「運営コストは業界最安値を提案しています」のようなものがプレゼンテーションの項目になります。

一つの回答例をお伝えいたします。
イシュー:「温泉街のHPを作り直すべきかどうか」
サブ・イシュー①:HPを作り直す目的は明瞭か?
プレゼンテーション項目①:現在のHPは古くて見栄えがせず、無駄なだけです。
プレゼンテーション項目②:現在のHPでは新しいWebサービスが使えません。
プレゼンテーション項目③:現在のHPではセキュリティに問題があります。
プレゼンテーション項目④:現在のHPはBtoCに対応していません。
プレゼンテーション項目⑤:現在のHPでは日々の情報更新に手間がかかりすぎます。
サブ・イシュー②:HPを作り直すことで効果は得られるのか?
プレゼンテーション項目①:新しいデザインとSEO対策で多くの人の目を引きます。
プレゼンテーション項目②:新しいWebサービスであるSNS機能が使えます。
プレゼンテーション項目③:個人情報保護は万全になります。
プレゼンテーション項目④:BtoCでHPから予約が可能になります。
プレゼンテーション項目⑤:事務局の方が簡単に日々の情報を更新できます。
サブ・イシュー③:作り直す費用は期待する効果に見合っているか?
プレゼンテーション項目①:費用は市場価格よりも格安です。
プレゼンテーション項目②:運営コストは業界最安値を提案しています。
プレゼンテーション項目③:地元の信用組合で作り直し費用の融資に応じます。

いかがでしょうか、これならば頭の固い温泉街のお年寄りに、「あなたのところにHPの作り直しをお願いしましょう」と言ってくれるのではないでしょうか。
このように、“イシュー分析”は最終的に経営判断を適切に導くのが目的です。それを、フローにしますと、次のようなものです。
イシュー(Yes/No Question)⇒サブ・イシュー(Yes/No Question)
⇒仮説(Yes or No)⇒証拠となる情報⇒結論(経営判断、Yes or No)

それでは、以下のスキル・チェックをしてみましょう。
①イシュー分析を中心に考える。これが論理的思考力で最も難しいセッションであり、この重要性を深く理解する。⇒そう思えれば〇です。実際、お伝えする筆者も一番苦手です。
②残りは難しいというものではない。要するに常識を使えということ。⇒そう思えれば〇です。なにせ、計算は四則で十分です。

以上で論理的思考力は終わりですが、何ともうまくお伝えできたかどうか不安です。そこで、無料で学べるサイトを以下のとおりご紹介いたしますので、ご参考にお願いいたします。
http://www.nsspirit-cashf.com/logical/senryaku_shikou.html
N's spirit投資学研究室「ロジカルシンキングを鍛える」
https://sites.google.com/site/sentakumba/
選択MBA
http://www.ltkensyu.com/logicalthinking1.html
ロジカルシンキング研修.com

F「論理的思考力⑤~Yes/No Question~」

イシュー分析を行う上で、「イシューを「〇〇をすべきかどうか」というYes/No Questionとして文章化します。ついで、その判断をするために整理しなければならない課題(サブ・イシュー)を複数あげて、「△△はどうなのか」というYes/No Questionとして文章化します。」と申し上げました。
では、Yes/No Questionとはなんでしょうか。それは、回答がYesかNoのどちらかしかない、という質問のことです。例えば、「今ご飯を食べるかどうか」というような質問です。答えは「食べる=Yes」か「食べない=No」のどちらかです。
この逆がOpen Questionです。これは、回答が千差万別にわたる質問のことです。例えば、「ご飯は何が食べたいですか」というような質問です。答えは「寿司」とか「ハンバーグ」とか「牛丼」とか「ラーメン」とか、いろんなものがありえます。
イシュー分析では、イシュー(Issue、会社の経営やプロジェクトの運営に大きな影響を及ぼし、すぐにでも検討しなければならない課題)を判断しないといけませんから、Yes/No Questionでなければ、議論が堂々めぐりして決められないことになるからです。
従って、ここの要因(サブ・イシュー)もYes/No Questionで文章化し、すべてのサブ・イシューがYesであれば、イシューもYesになる、そういった議論のプロセスが必要になるのです。
しかし、この先、ファシリテーション・スキルのところでお話をいたしますが、相手の意見を聞きだす、汲み取る、そうした作業の際には、逆にOpen Questionが有効になります。Yes/Noで結論を迫ると、話さなくなる人が多いですし、短絡的な結論は有益とは言えないからです(ここではいずれOpen Questionの話があると覚えておいてください)。

では、実際にどれがYes/No Questionで、どれがOpen Questionか見てみましょう。
「日本の工場を閉鎖し、どの国へ工場を建設すべきか?」
これは、答えが中国とかベトナムとかいろいろと出てきますので、Open Question。
「売上低下に対し、どのような対策を打つべきか?」
これも、対策がいろいろと出てくるでしょうから、Open Question。
「高収益構造を目指し、組織を改編すべきか?」
これは、すべきか、すべきでないか、の選択ですから、Yes/No Question。
いかがでしょうか、ご理解いただけたでしょうか。

次に、「考える」という方法で演繹法と帰納法がありますが、イシュー分析の場合はどちらでしょうか。そうですね、サブ・イシューを設定して、イシューを構造化するのですから、明らかに帰納法です。
会社の経営者やプロジェクトのマネージャーは、「経営判断( Decision Making )」をするために存在しています。そして、判断したことを実行するために存在しています。従って、判断をしない、あるいは判断を実行しない経営者やマネージャーは無用の産物とも言えます。
この判断をするためには、判断をする過程である思考のプロセス(即ち考える方法です)をできるだけ可視化し、その構造を目で見ることが有効です。この場合の思考のプロセスは演繹法でも帰納法でも可能なのですが、複数の要因を構造化する、という意味において帰納法がはるかに「目で見る」ことができる、ということなのです。

それでは、次回までに回答をいただく例題を差し上げたいと思います。
回答の例示は次回とさせていただきます。
例題:
HP作成を主要なビジネスとする個人事業主であるあなたに、別所温泉協会から、温泉街のHPを作り直したいとの問い合わせを受けました。明後日の打ち合わせに行く前に、温泉協会のイシューである「温泉街のHPを作り直すべきかどうか」というYes/No Questionを構成する複数のサブ・イシューを作成し、そのすべてにYesという回答を引き出せるよう、プレゼンテーションを用意してください。回答していただくのは、複数のサブ・イシューであり、それに対するプレゼンテーションの項目です。例えば、「作り直す費用は期待する効果に見合っているか」というサブ・イシューを作成するとすれば、「費用は市場価格よりも格安です」「運営コストは業界最安値を提案しています」のようなものがプレゼンテーションの項目になります。

F「論理的思考力④~イシュー分析~」

例題:
上田市の近郊にある別所温泉の売上が年々減ってきています。MECEによってその原因を究明してください。

こうした例題の解き方はさまざまに考えられますので、どれが正解とか、どれが不正解とか、そういう観点ではなく、こうした考え方で整理すると、こういうところまで理解できる、という捉え方をしていただければ幸いです。その意味で、一つの回答例です。
1) 新規顧客が減少している
ア) 他の温泉街との差別化ができていない
イ) 他の観光地との差別化ができていない
ウ) 他の温泉街や観光地との違いをアピールできていない
2) リピーターが減少している
ア) 従業員の接客レベルが低い
イ) 費用に見合った料理が提供されない
ウ) 費用に見合った施設設備が用意されていない
エ) 費用に見合った宿泊サービスが提供されない
オ) 宿泊客のデータベースが無いのでリピーターかどうかもわからない
3) 顧客単価が減少している
ア) 団体旅行に依存している
イ) 旅行代理店に依存している
ウ) 有料で利用しやすい追加サービスが無い
エ) 夕食で頼めるお酒に魅力が無い
オ) 料金別の夕食メニューが用意されていない
少なくとも第一段階の三点整理はMECEらしくなっていますし、第二段階も羅列型ではありますが問題点を指摘し、その後の改善につながりそうなイメージがあるのではないでしょうか。例えば、リピーターを増やすために①データベースを構築し、②従業員の接客サービスを高めよう、という改善策が見えてきやすいのではないでしょうか。このような整理の仕方は、一つの課題を解決するためにいくつかの要因を分析することにつながり、それはこの後にお話しするイシュー分析への道を拓くものです。

では、論理的思考力で一番大切な“イシュー分析”に入らせていただきます。
“イシュー分析”、まずイシューとは何かです。イシュー(Issue)、それは会社の経営やプロジェクトの運営に大きな影響を及ぼし、すぐにでも検討しなければならない課題を意味します。そして、このイシューを解くために、イシューを構造的に分析し、イシューを構成する複数の要因をサブ・イシューとして構造化し、一つ一つのサブ・イシューがすべてYesという結論になれば、イシューもYesという結論に導く、という手法になります。多くの場合、イシューに該当する問題はいくつかの要因が錯綜しており、それを整理し、要因の相互関係や優先順位などを明らかにしなければならないからです。
言葉を変えますと、イシューを「〇〇をすべきかどうか」というYes/No Questionとして文章化します。ついで、その判断をするために整理しなければならない課題(サブ・イシュー)を複数あげて、「△△はどうなのか」というYes/No Questionとして文章化します。このサブ・イシューの設問に対して、すべてYesという判断ができるのであれば、最初のイシューもYesになります。また、サブ・イシューの中でYes/Noが判断できないものがあれば、そこの情報が不足していることになりますので、直ちにそのサブ・イシューに関する情報を掘り下げればよいのです。

言葉だけで言っていますとわかりにくいと思いますので、これも例題にします。
イシュー:今使用しているパソコンを買い替えるべきかどうか。
サブ・イシュー①:今使用しているパソコンは仕事に使う性能が不足しているかどうか。
サブ・イシュー②:買い替えようとしているパソコンは仕事に使う性能が十分かどうか。
サブ・イシュー③:買い替えによってもたらされる仕事の改善はパソコンの買い替え費用に見合う効果があるかどうか。
サブ・イシュー④:買い替える資金が用意できるかどうか。
サブ・イシュー⑤:買い替えようとしているパソコンは使いこなせるかどうか。
いかがでしょうか、こうしたサブ・イシューの①から⑤までがすべてYesであれば、パソコンを買い替える判断をしてよさそうです。
また、サブ・イシュー③が何とも言えないとすれば、本当に費用対効果があるのかどうかを再度検証し、YesかNoかを決めなければなりません。そこでYesになれば、すべてのサブ・イシューがYesと揃い、イシューもYesになる訳です。

次回は、Yes/No Questionのお話を差し上げ、さらに“イシュー分析”を進んでいきたいと思います。

F「論理的思考力③~MECE~」

論理的思考力もいよいよMECEとイシュー分析のレベルに入ります。
まずはMECEです。
Mutually Exclusive(ダブりなく)、Collectively Exhaustive(モレなく)という用語です。いったいなに?と思うかもしれません。これは、グルーピングをする際に、「相互に排他的な項目」による「完全な全体集合」という概念です。ですので、一つの集団を細分化する場合、重複が無く、漏れも無ければ、すべて完全に分離できていることがわかります。従って、何かしらの事象の要素を分析するとして、漏れなく挙げ尽くしたいとすれば、MECEの考え方は有効になり、あらかじめの予断で分析するよりは客観的で、見逃してしまうような要素も見つけることが可能になります。
このため、プロジェクトを遂行する際にすべてのメンバーのすべての作業を一つの構成図にまとめるWBS(Work Breakdown Structure)を作るとか、新しい商品を企画する際にユーザに必要な機能を洗い出すとか、調査をする際に調査項目を選び出すとか、そうした作業で使われることの多い考え方です。

少し具体的に考えてみましょう。
例えば、人間という集団を1歳の年齢区分に分ける作業はMECEです。なぜならば、違う年齢に同時に属することはできないからです。
例えば、人間という集団を男性と女性に分ける作業はMECEではありません。例外的に両性具有(あるいは性同一性障害)が存在します。従って、男性、女性、両性具有(あるいは性同一性障害)と分ければMECEになります。
例えば、時間というものを過去、現在、未来に分ける作業はMECEです。そのいずれにも属しない時間はSFの世界でもなければ存在しないからです。

また、MECEは段階ごとに行うことも可能です。人間という集団を1歳の年齢区分に分けて(第一段階)、ついでその年齢区分を男性、女性、両性具有(あるいは性同一性障害)に分ける(第二段階)、ということも考えられます。こうして段階ごとにMECEで考えることは、問題の原因を階層的に把握する際に有効な手段となります。

では、具体的に考えてみましょう。
例題:「砂丘が消失している」現象が観察された。その原因をMECEによって究明してください。
これに対する回答はさまざまに考えられますので、その中から例をあげてみます。
砂丘が消失している原因は
① ダムが建設された
② 地球温暖化が進んだ
③ 違法な砂利採取が横行している
④ それ以外の〇〇
このように羅列的に原因を探りますと、とりとめが無く、どう対応したらよいのか、もぐらたたきになってしまいます。

次に
① 空の理由で
② 海の理由で
③ 陸の理由で
これはMECE的に整理できてはいますが、砂丘が消失するというメカニズムまでは見えてきません。

最後に
① 砂丘が水没する
ア) 海面が上昇する
イ) 地盤が低下する
② 砂自体が消失する
ア) 浸食される量が増える
イ) 堆積する量が減る
こうして整理しますと、メカニズムも見えてきますし、段階的に原因を探ることも可能となります。

それでは、次回までに回答をいただく例題を差し上げたいと思います。
回答の例示は次回とさせていただきます。
例題:
上田市の近郊にある別所温泉の売上が年々減ってきています。MECEによってその原因を究明してください。

C「就職留年と公的支援」

この春に卒業した大学生の就職率は93.9%、前年比で0.3%改善され、さらに来春にはその傾向が強まると予想されています。
その一方でじりじりと増え続けているのが就職留年です。留年ではなく就職できずに大学院へ進学するケースも含めますと、かなりの数に上ると考えられています。
「内定はもらったけど本命ではないので」とか、「中小企業しか残っていないので」とか、その理由はさまざまでしょう。もちろん、自分の進むべき道をきちんと思い定めて、そこへ一路邁進というのであれば、一年間の留年、あるいは二年間の修士課程は有効かもしれません。しかし、忘れてはいけないのは、今の日本では大学浪人とは違って、就職留年は明らかに不利になる、という現実です。
「就職留年=普通ではない」という意識をほとんどの企業の採用担当者は持っているでしょう。「普通ではない」は基本的にはマイナス評価です。「普通ではない」を「面白い」へ変えるにはかなりの努力が必要です。
「どうして就職留年したのか」「一年間で何が変わったのか」「なぜこの会社を続けて受けたのか」といった質問にきちんと答えられなければ、「就職留年=普通ではない=マイナス評価」というスパイラルから抜け出すのは難しいでしょう。
ですので、まずは自分がなぜ就職留年するのか、その後の進路をどう考えているのか、そのために自分は何をするのか、といった基本的な事柄に深く思いを巡らせていただきたいと思います。

さて、こうした新卒者、あるいは卒業してから3年以内の既卒者を対象とした公的な支援制度が今年度に入ってさまざまに整えられてきました。まだ、進路が定まっていないのであれば、こういった公的な支援制度を活用することもぜひお考えいただきたいと思います。
第一の制度が「若者チャレンジ奨励金」です。35歳未満の若者を、自社の正社員として雇用することを前提に、自社内での実習(OJT)と座学(OFF-JT)を組み合わせた訓練(若者チャレンジ訓練)を実施する企業に、訓練奨励金として訓練受講者1人につき月額15万円を支給し、訓練終了後、訓練修了者を正社員として雇用した場合には、正社員雇用奨励金として1人当たり1年経過時に50万円、2年経過時に50万円(計100万円)を支給するというものです。ただし、厚生労働省が進めているジョブ・カードの記載が必要になるようですので、この制度にご興味がおありでしたら、それぞれの地域の商工会議所に地域ジョブ・カード(サポート)センターが設置されていますので、そちらにご相談されるのがよろしいと思います。

第二の制度が「新卒応援ハローワーク」です。新卒応援ハローワークは、大学院・大学・短大・高専・専修学校などの学生さんや、卒業後未就職の方の就職を支援する専門のハローワークです。全国各地のハローワークに設けられていますが、長野県では長野新卒応援ハローワーク(長野市新田町1485-1もんぜんぷら座4階分庁舎)と(長野市中御所3-2-3)、松本新卒応援ハローワーク (松本市深志1-4-25松本フコク生命駅前ビル1階)がありますので、ぜひご利用ください。

第三の制度が「新卒者就職応援プロジェクト」です。これは経済産業省の制度で、新卒者及び平成22年3月以降に大学を卒業した未就職の方を対象に、中小企業の仕事現場に触れながら中小企業で働く上で必要とされる技能やノウハウを習得してもらうための長期間の職場実習(インターンシップ)を実施するものです。職場実習中、実習した日数に応じ技能習得支援助成金(日額5,000~7,000円)が支払われます。この制度は、パソナとかヒューマンリソシアとかマイナビとか、さまざまな企業が事務局になっているようですので、詳しくはWebでサーチしてみてください。長野方面ですと8月8日(木)にパソナキャリア・長野で説明会が開催されるようです。インターンシップから就職ということも十分考えられるでしょう。

安直に就職留年するのではなく、さまざまな支援制度も使って、自分の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

F「論理的思考力②~演繹法と帰納法~」

前回は「仮説を立てる」という問題を実際に家庭用冷蔵庫で考えてみました。
今回は、「考える」という方法を演繹法と帰納法に分けて見てみたいと思います。

演繹法(えんえきほう)と聞いただけで、何か面倒くさいと思われる人も多いでしょう。どうも論理学は、正確さを求めるがあまり、難しい物言いをして、人を構えさせる傾向があるようです。
何のことはありません、「風が吹けば桶屋が儲かる」という考え方を演繹法だと思ってください。
よろしいですか、何せ笑い話ですので
① 風が吹くと土ぼこりが立つ
② 土ぼこりが立つと、土ぼこりが目に入って目を悪くする人が増える
③ 目を悪くする人が増えると三味線が売れる(当時は目の悪い人は三味線をひいて門付をすることで生活していたのです)
④ 三味線が売れると猫の皮がいるから猫が減る
⑤ 猫が減ると鼠が増える
⑥ 鼠が増えると桶をかじる
⑦ 桶がかじられると桶屋の仕事が増えて桶屋は儲かる
⑧ 従って、風が吹くと桶屋が儲かる、ということです。
AならばB、BならばC、従ってAならばC、という考え方を演繹法と言います。
笑い話ではない事例で言いますと
① 公務員は真面目である
② 田中さんは公務員である
③ 従って、田中さんは真面目である
こういう感じですね。

この考え方には危険性があります。
AならばBというつながり方に誤りがあれば、結論はとんでもないところにいってしまいかねません。「公務員は真面目である」ということはおおむねは正しくても、すべての公務員にあてはまる訳ではないのです。この種の誤りが一つあれば、直線的な演繹法の考え方では、可逆的に引き返すことが難しく、そのまま誤った方向へと進む危険性があると言えるでしょう。

この逆が帰納法(きのうほう)です。これは、いくつかの情報を並べて見ることで、一つの仮説を立てる、という考え方です。演繹法のように一つの情報から一つの結論を見出し、それを直線的につなげていって仮説を立てるのとは違います。
これも具体的にやってみましょう。あなたが興味を抱いている異性がいるとしましょう。
① 彼女は(彼は)私と話していると楽しそうだ
② 彼女は(彼は)私が話しかけると真正面から見つめてくれる
③ 彼女は(彼は)私とお昼を一緒に食べるのを喜んでくれる
④ 彼女は(彼は)一度自宅に母親の手料理を食べに来ないかと誘ってくれる
⑤ 彼女は(彼は)つきあっている異性がいないようだ
⑥ 彼女と(彼と)音楽やファッションの好みがあっている
⑦ 従って、彼女は(彼は)私に好意を抱いてくれていると思う。
いかがでしょうか、複数の情報(傍証)から一つの仮説に至っています。しかし、演繹法とは違って、複数の情報の中に間違いが入っていても、その罪は少ないと言えるでしょう。真正面から見つめてくれるのは、単に強い近眼で見えにくいのかもしれません。しかし、ほかの情報を見ますと、仮に彼女が(彼が)強い近眼であったとしても、「私に好意を抱いてくれている」という仮説の信憑性には大きな問題はなさそうです。もちろん、集めた情報のほとんどが間違いであれば、これは帰納法でも間違った結論に行ってしまいます。従って、“論理的思考力”の基盤には現実の正確な把握が必要であり、それがいわゆるフィールド・ワーク(field work、現地を実際に訪れ、その対象を直接観察し、関係者には聞き取りやアンケートを行い、現地での資料の採取を行うなど、客観的な成果を挙げるための調査法)が重要だということにもつながるのです。

このように、論理的に考える場合に演繹法と帰納法があることはわかっていただけたと思いますし、帰納法は演繹法よりも仮説で間違う危険性が少ない、ということにもご理解がいただけたと思います。

F「論理的思考力①~仮説を立てる~」

皆さんのスキル・トレーニングも、言語化スキル、コミュニケーション・スキル、プレゼンテーション・スキルと進んでまいりました。
今回は難問の(筆者にとって)“論理的思考力(ロジカル・シンキング)”です。
21世紀に入って、日本ではさまざま形で取り上げられ、その習得が求められるようになったスキルですが、要するに「理路整然とした論理的な考え方」ということです。
記憶力を伸ばすには、事柄をばらばらに収納するのではなく、事柄同士を「何故」という糸でつなげて収納する、と言いますが、“論理的思考力”もそれに近いものです。
私たちが目にする事象は、一つの結果として現われますが、結果には必ず原因があり、いくつかの原因が網の目のようにつながって結果になる、と言えるでしょう。従って、事象を変えたいと思うのであれば、その事象の原因を探り、原因同士がどうつながっているかを明らかにし、原因を除去する、あるいは原因同士のつながり方を変えることが必要になります。
こうした作業の基盤となるのが“論理的思考力”ということです。

では、まず簡単な事例に沿って、「仮説を立てる」という行動と、「ロジックによる構造化」という行動を考えてみましょう。ここで言う「仮説を立てる」というのは、事象の原因を論理的に分析して仮定する、ということです。また、「ロジックによる構造化」というのは、事象を網の目のようにつながったいくつかの要素に分解する、ということです。「ロジックによる構造化」ができなければ、「仮説を立てる」のは難しいでしょう。
例題として、日本における家庭用冷蔵庫の販売台数を考えてみましょう。はたして、日本では一年間に家庭用冷蔵庫が何台売れるのか、日本における家庭用冷蔵庫の市場規模はどのくらいか、という問題です。
ここでは仮説が必要です。どういうときに家庭用冷蔵庫は売れるのか、という仮説です。
第一に考えられるのは、製品寿命による買い替えです。これは確実に発生しているはずです。
第二に考えられるのは、新婚生活に入るときには新品の家庭用冷蔵庫を買うだろう、ということです。
第三に考えられるのは、一人暮らしをはじめるときにも家庭用冷蔵庫は必要だろう、あれだけ重いものを実家から送るのは考えられないので、一人暮らしをはじめる土地で買うだろう、ということです。
もちろん、家庭用冷蔵庫を買う原因はこれ以外にもたくさんあるでしょうが、常識的に大きな原因と言えば、製品寿命、新婚生活、一人暮らしの三つに整理すればよろしいと思います。
では、まず製品寿命による買い替えはどの程度の数になるか、ということです。これを構造化してみますと、だいたいの見当で、日本の総世帯数は4,000万世帯くらいでしょう。そして家庭用冷蔵庫の製品寿命は10年くらいと仮定します。そうしますと、4,000万世帯÷10年=400万台の需要が見込めます。
次に新婚生活に入る数ですが、これもだいたいの見当ですが、全人口を1億3,000万人、性比を1:1とし、寿命を80歳とし、結婚率を0.8としますと、13,000万人÷2÷80×0.8=65万組が毎年の新婚さんということになります。
最後に一人暮らしに入る数ですが、二人に一人が親元を離れると仮定しますと、13,000万人÷80×0.5=81万人が毎年一人暮らしをはじめることになります。
これをあわせますと、400万台+65万台+81万台=546万台というのが、日本における年間の家庭用冷蔵庫の販売台数ではないか、という仮説ができることになります。
では、実際にはどうでしょうか。経済産業省による「家庭用電気冷蔵庫及び家庭用電気冷凍庫の現状について」という資料によれば、2004年の国内生産台数は302万台、輸入台数は200万台、輸出台数は7万台、差し引きの国内需要は495万台ということです。いかがでしょうか、仮説による546万台と10%の誤差はありましたが、なかなかの精度であたったと言えるのではないでしょうか。

“論理的思考力”が「難しいものを単純にし、構造化(誰が見てもわかりやすく)して、相手を納得させるための思考方法」だとしますと、家庭用冷蔵庫の市場規模を考える仮説の過程は、まさにそのとおりだとおわかりいただけたと思います。
そして、それは何も難しい計算方式などが必要なものではなく、単純な四則(+、-、×、÷)があれば十分なのです。上記の仮説でもそれ以外は出てこなかったはずです。
例えば
+:製造原価=原材料費+加工・組立費
-:利益=売上-原価
×:売上=価格×量
÷:市場占有率=当社の売上÷市場規模
ということです。“論理的思考力”には小学生の理解する算数で十分だ、そうお考えください。

C「読者からの質問⑨~増配と就職活動~」

Q:「2014年3月決算における上場企業の配当額が過去最高になる」とある時期は、私たち2015年3月卒業予定の学生(現在の大学3年生、修士1年生)の就職活動まっただ中となります。言い換えると景気の良い時期に就職活動を迎える非常にラッキーな世代と言えるのでしょうか?また、その上場企業の決算の配当額の高低が私たち学生に(就職活動を中心に)及ぼすと予想される内容、また私たち学生から見た景気の捉え方、注意する点など具体的に教えてくださると嬉しいです。
A:これは大変直截的なご質問です。
第一に景気の良い時期に就職活動を迎える皆さんは極めて幸運と言えるでしょう。企業経営者は利益を雇用よりも研究開発や設備投資、あるいは内部留保に向ける傾向にはありますが、そうは言っても基本的には採用枠が拡がりますので、それだけ門戸は開かれることになります。
筆者が卒業する頃(留年したので少しずれましたが)、これは戦後日本で最大級の経済ショックだった第一次オイルショック(1973年秋)のあとの雇用調整が長引く時代でしたので、工学部の建築科が通常入社できる鹿島や大林に全然入れず苦労していたのを鮮明に思い出します。
先日も福島県と首都圏でシステムインテグレードのビジネスをしている社長さんが、「もう首都圏では技術者が取れません、景気が上向くと中小企業は人で苦労します」と言っておられましたが、雇用戦線、特に新卒や技術者ではそういう傾向がはじまっているようです。
従って、来春は売り手市場になりますので、皆さんは極めて幸運と言える訳です。
第二に、「そうは言っても」で、大企業の多くは国内よりも海外に主戦場がある時代に入っています。ですので、国際的に活躍できる人材に大企業はシフトしつつあります。そういう意味で、皆さんは国内に留まらず、海外の人材とも競争環境に入っているという自覚が必要です。
語学力は当然として、行動科学的に言えば“コミュニケーション・スキル”と“自信”、そして“達成指向性”と“関係構築力”、そういったスキルやコンピテンシーを伸ばすことが重要になるでしょう。
第三に、これが一番大事ですが、皆さんが入ろうとする会社の価値観やビジョンは皆さんの価値観やビジョンにあっていますか、ということです。なんと言っても、かなりの人生をともに過ごす相手です。相性が悪ければ、かなり辛いことを我慢しないといけません。もちろん、「好きなことが最初からあるのではなく、選んだ仕事に専念しなさい、そうするとだんだん好きになる、好きになると次から次へと興味が湧いてくる、そのうち大好きになる」ということは正しいのですが、世の中にはどうにも好きになれないこともあるのです。そして、個人ではなく会社との相性が悪ければ、これをスルー力でやり過ごすには問題が大きすぎます。
そういう意味では、せめて相性があいそうな会社を選ぶのがよろしいでしょう。
そして、大企業であればあるほど、個人は組織に埋もれやすく、企業規模が小さければ小さいほど、個人としてのプレゼンスが認められる、という点にも留意していただきたいのです。
そうです、皆さんが自分なりの生き方をお考えでしたら、はっきりした価値観をお持ちでしたら、そうした生き方や価値観にあった中小企業や小規模事業者も選択の対象としては魅力的だ、とお考えいただきたいのです。
目の前の好決算や売り手市場も大切ですが、それよりも「自分がどう生きるのか」という観点から選択を考えられてもよろしいと思います。もちろん、新卒でしょうから正社員を、ということですが。

D「読者からの質問⑧~戦争の記憶から生まれる困難~」

Q:実際に筆者が経験した戦争の記憶から生まれる困難や経験はどのようなものでしょうか?教えてください。そうした困難や経験を乗り越えないと、アジアでの新しいビジネス展開に支障が出ると危惧するからです。
A:筆者は残念ながら戦後も10年近く経過してから生まれましたので、戦争体験がありません。しかし、親の世代は兵隊に連れて行かれたか行かれなかったかのギリギリですし、何よりも筆者の生まれ育った会津はこの前の内戦で敗けた方ですから、それも含めてお話を差し上げたいと思います。
基本的には「敗けた方はなかなか忘れない」ということです。
これは第23話で「『戦争の記憶は三代続く』と言われます。戦争で被害を受けた、あるいは目にした世代を第一世代としますと、彼らは孫の世代にまでは『私はこんなひどいことをされたのよ』と直接話ができますので、孫の世代、第三世代までは生々しく戦争の記憶を伝えられる、従ってそれまでは記憶が風化することはない、ということのようです。戦争で被害を与えた方では、『俺はこんな悪いことを戦争でしたんだ』などと孫に話すことは考えにくいですので、こうした現象は戦争で被害を与えられた方により強く発生するのでしょう。よく言うではありませんか、加害者は事件を忘れられるが、被害者は事件を忘れられない、と。」とお伝えしました。
まさにそのとおりです。
この記憶はなかなか抜けないものらしいです。
特に会津の場合は、一種の被害者意識があって、同時に本当の被害にあった士族はかなりの数が会津を離れて、会津に残ったのは農商工と下級士族が多くを占め、さらに「白虎隊」をはじめとして戦争体験で商売をしている傾向がある、という複雑なところです。
このため、「本当に辛いことを体験したのではない」ということから、割と安易に戦争体験を口にしやすいので、被害者意識が空気のように蔓延している、という傾向があるようです。
こうした傾向をアジアとの戦争に置き換えてみますと、やはり日本では戦争体験が風化しやすく、アジアでは風化しにくい、というのは間違いのない傾向だと思います。
また、「本当に辛いことを体験したのではない」という世代が多くを占めれば占めるほど、何かのきっかけで被害者意識は空気のようにアジアに蔓延する危険性があると考えるべきかもしれません。
仮にそうだとするならば、加害者側の言動や立ち居振る舞いには十分な注意が必要で、それは社会的なプレゼンス(存在感)が大きい人ほどそうだ、と言えるでしょう。
手前誇りを避け、そっくり返らずに謙虚に、相手の心境や感情を尊重し、だからといって相手に迎合するのではなく、事実を事実として伝え、かつ受け入れる、ということに尽きるのではないでしょうか。
これはご質問の戦争体験やアジアとの付き合い方に限らず、皆さんが社会に出て行動するほとんどの領域で通用する「人としての姿勢」ではないかと思うのです。とりわけ、中小企業や小規模事業者で働く場合には、重要な「姿勢」と言えますので、ぜひご念頭に置いていただきたいと思います。

Q:天皇の行動から見える「精神の深さ」は、少しわかりました。ただ、今の政治家の「浅さ」という点に関して、あと少し詳しくお話を聞きたいです。
A:既に皆さんは第82話でジュリアス・シーザーの名言をお知りになりました。「文章は、用いる言葉の選択で決まる。日常使われない言葉や仲間うちでしか通用しない表現は、船が暗礁を避けるのと同じで避けなければならない。」とね。
まさにこのとおりでありまして、「用いる言葉の選択」を間違う、と言いますか、そこまでも考えていないような「精神の浅さ」が乱暴な物言いにつながっているのではないでしょうか。
ざっとこのところの言動を見ましても
「自分の子や近所の娘が連れて行かれるのを黙って見ていたのか。そんなに朝鮮人の親は弱虫だったのか。(中山成彬氏)」
「あれだけ銃弾が雨嵐のごとく飛び交うなかで命かけて、そこを走っていくときに、猛者集団、精神的にも高ぶっている集団は、どこかで休息させてあげようと思ったら慰安婦制度が必要だ。(橋下徹氏)」
「ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。(麻生太郎氏)」
と並べてみますと、いかがでしょうか、さすがに乱暴な物言いではないでしょうか。
皆さんも言語化スキルを習得する中で、「用いる言葉の選択」を間違わないようにされると誤解や錯覚がかなり減るのではないでしょうか。

F「読者からの質問⑦~動機を深く知る~」

Q:その他の学問(哲学、心理学など)で動機について説明しているものはあったりするのでしょうか?
また、動機のさらに下の層は全くないものでしょうか?
さらに、動機と二律背反するもので仕事以外にどのようなものがあるかについても興味があります。
A:行動科学はもともと心理学の領域から生まれた学問です。
従って、“動機”は心理学が最初に取り上げた概念と言えます(別の意味では倫理学が取り上げています)。
ですので、動機について人間の能力という範疇以外に調べたいと思うのでしたら、心理学を調べてみるのがよいでしょう。
例えば、心理学では人間を行動へ導く原因を「動機づけ」という用語で整理する場合があります。この動機づけも、生理的なものと社会的なものに区分しているようです。即ち、ホメオスタシス(Homeostasis)としての動機と、社会的な(Social Motive)動機ですね。
そして、社会的な動機づけを①達成動機づけ②内発的動機付け③外発的動機付けに分けているようです。達成動機づけは達成動機そのものですのでよろしいとして、内発的動機づけは好奇心や関心によってもたらされるもので、後述する外発的動機づけのように賞罰とは無関係です。いわば、自分自身の興味から生じる動機とでも言えるでしょう。
これに対して、外発的動機づけは義務、賞罰、強制などによってもたらされるもので、強制された外発的動機づけは、最も自発性が低い外発的動機づけとなります。学校や塾で成績を上げなさいと強く迫られ、自分自身ではそうは思っていない場合などがその典型になるでしょう。その反面、自己の価値観と一致している場合は自律性が高く、内発的動機づけとほぼ同様の意味を持つと考えてもよいでしょう。学校や塾で成績を上げなさいと強く迫られても、自分もそれを目標としている場合などがその典型になります。
次に、動機よりも下の深い層に存在するもの、ということですが、これは行動科学では対象としません。それは、そういったものが存在するにしても、それは人間の能力には影響を及ぼさない、あるいは及ぼしたとしても改善する可能性が無い、と考えるからです。その意味では、大変お答えのしにくい質問ですが、独断のそしりを受けてもあえてお答えするとすれば、それは人間(ホモ・サピエンス)の種(しゅ)として染み付いている「本能」のようなものが考えられるかもしれません。あるいは、かつての祖先が経験し、今の私たちの深層心理に刻み込まれたある種の「記憶」のようなものもあるかもしれません。
例えば、私たちは蚊の羽音を聞くと、無意識的にそれを避ける、嫌う、身構えるという行動を起こしますが、これはホメオスタシスと言うよりは、かつて私たちのご先祖さまが草原で狩をしていた旧石器時代、大量に発生する蚊から身を守るのに四苦八苦していた名残のようなものです。また、暗闇に閉じ込められると人間は灯りの見える方向へと進むものです。前者は「記憶」であり、後者は「本能」と言うことができるでしょう。
最後に、仕事と同じように自分自身の動機と二律背反する存在は何か、という質問です。これは、大変答えにくく、かつ奥の深い質問で(このような対応がプレゼンテーション・スキルの施策で位置づける「一歩前へ」ということです)、私たちが「生きる」うえで、そういう局面に陥らないように注意しなければならないことです。
例えば、自分と極めて近い関係にある他者の価値観、これがあなたの動機と二律背反する危険性があります。その価値観を変えるか、あるいはその価値観を受け入れるか(スルーするのも受け入れるに含めます)、あるいはその他者との関係を絶たない限り、あなたの動機とその他者の価値観は常に緊張状態に陥ります。
具体的な例をあげますと、あなたに達成動機が皆無であるとしましょう。ところが、あなたのご両親は受験勉強で勝ち、優秀な成績で大学へ進学し、大企業へ入ることがあなたの人生にとってもっとも重要だと、そういう価値観をお持ちだとしましょう。これはかなり危険な関係になると、おわかりいただけるでしょうか。何せ、あなたには達成動機が皆無なのですから、競争なんて勘弁して、ということです。ましてや優秀な成績とか、大学進学とか、大企業入社とか、何の価値も見いだせないのです。こうなりますと、親子の関係は極めて危ういものになるでしょう。
このように、自分と極めて近い関係にある他者の価値観は、両親であれ、兄弟姉妹であれ、配偶者であれ、親戚や地域のコミュニティであれ、あるいは子供であれ、あなたの動機と二律背反になる危険性があると言えるでしょう。その極めてまずい例が、家庭内暴力などの事件に現われることになります。

F「読者からの質問⑥~すごい人の共通点~」

このコラムは読者とのキャッチボールも重要と位置づけており、その作業の中から①これから社会に参加する若者の皆さんに「働く」、あるいは「ビジネス」ということがどういったものなのかを知っていただく、②中小企業や小規模事業者で働くために重要な知識やスキル、あるいは社会人基礎力を身につけていただく、③中小企業や小規模事業者の海外進出において必要とされるさまざまな国や地域の情報や文化風土などの基盤的な知見を知っていただく、そうしたことを深堀したいと考えています。

Q:『「この人はすごい」という出会い』の共通項(すごい人の共通点、出会いの共通点)というのは具体的にどういったものだろうと興味を持ちました。決して、私たち他人にはその共通項を共有することは不可能だと思いますが、その共通項を見つける経緯に「出会い」に対してのヒントがあるのではないかと思います。
A:これは大変難しい質問です。と申しますのは、第一に筆者が「すこい」と思う人が他者から見ても「すごい」と思えるかどうか、これは必ずしもイコールではありません。第二に「すごい」ということにもかなりの幅がありますし、タイプの違いもありますので、「すごい」を一括りで整理できるか、という問題もあります。
しかし、そういった難しさをとりあえずは脇に置いて、乱暴に「すごい」という評価の共通項を取り上げてみたいと思います。
後段の「出会い」については、これは大変偶然性に左右されますので、『「この人はすごい」という出会い』には特に劇的な仕掛けとか、人為的なものは何もなく、ただただ出会いに対して気持ちを前向きに、出会いを逃さないように積極的に、という以外にはありません。
では、「すごい」という評価を筆者なりに最大公約数でまとめてみたいと思います。
なお、「すごい」=「価値観が合う」とか「好きだ」とかではありませんので、お間違いのないようにお願いいたします。
第一は、価値観がはっきりしているということです。そして、ある意味では社会的動機もはっきりしています。従って、多くの場合ではメリハリがついています。どこが頭だか、どこがお尻だかわからないような人で「すごい」人はめったにお目にかかれません。
第二は、レスポンスが速いということです。無視される、という意味でレスポンスが無いことはありますが、無視していいないかぎりレスポンスは極めて敏速です。ぐずぐずしている人で「すごい」人はめったにお目にかかれません。特に切迫した状況で判断が求められる、そういう局面で判断に躊躇する、あるいは後送りする、そうした人で「すごい」人はまずいないとお考えください。
第三は、徹底している、ということです。これは価値観がはっきりしているので、価値観に正直であればあるほど、徹底する訳です。例えば、佐久間洋一郎さんが料亭の下足番を叱りつけるとすれば、それは料亭の下足番に求められるプロフェッショナルな仕事というものがあり、それを果たしていなければ「許されない」という価値観があり、その価値観に正直である、ということです。
従って、こうした「すごい」人と関係を構築するに際しては、上記の三つに反していればいるほど、関係を構築することは難しくなります。
自分の価値観とは何かを意識しなければ、会話の継続は難しいでしょう。
レスポンスを保留して、時間の経過を待つ、という姿勢ではすぐに無視されてしまいそうです。
自分の言ったことは徹底しませんと、「言うこととやることが違う」のでは、徹底も何も無いのと同じですからこれは信用されません。
つまり、「すごい」人と関係を築くのはかなり疲れる仕事で、同時にかなりの緊張感をもたらすことになります。その分だけ、あなたの成長に寄与する、とお考えいただいてもよろしいでしょう。
まあ、私たち凡人の人生の中で、「すごい」と思える人と出会えるのは、本当に数少ないことですので(その反面、「価値観が合う」とか「好きだ」と思える人に出会うのは比較的容易です)、仮に「すごい」と思える人と出会ったら、ここは一番勝負だと思い定めて、腹に力を入れて、関係を築けるように踏ん張ってみてはいかがでしょうか、それこそ徹底して、です。