C第24話「思い込みがまねく失敗~エドセル~」

Category: シュウカツ俯瞰
以前、4Pという切り口でマーケティングを考えてみました。
今回はアメリカを代表するフォード社でもこんな間違いをしてしまうのだ、という笑い話をお伝えし、お客さま目線の大切さを理解していただきたいと思います。

時代は1950年代後半、明るく豊かなアメリカ全盛時代。フォード社はアメリカを代表する自動車メーカー、GE(ゼネラルモーターズ)、クライスラーと並んでビッグスリーと呼ばれる大企業です。
そのフォード社の車種ラインナップに専門家から一つの提案がありました。「大衆車ブランドと高級車ブランドの間、中級車のブランドが欠けていますね。これを埋めるような新しい車を開発販売したら万全でしょう。」と。

これを深刻に受け止めたフォード社の経営陣は、さっそく社運をかけて新しい車「エドセル」の開発に取組みました。
当時としては斬新なトランスミッションやシートベルト、スイッチ式の操作パネルといった機能を盛り込み、当時としてはこれも奇抜なフロントグリルデザインを備え、車名は初代社長の息子で現社長の父親にあたるエドセル・フォードから「エドセル」と名付け、さらにテレビを使った大々的な広告キャンペーンを展開したのです。
フォード社としては、4Pの「Product=車」「Price=価格」「Place=販売網」「Promotion=キャンペーン」の全てを押さえたと信じていたでしょう。

しかし、この「エドセル」はまったく売れませんでした。3年間で売れたのはわずか10万台少々という惨状でした。これが今でも語り継がれている「マーケティング史上に残る最大の失敗の実例」です。

これだけの大失敗ですから、その原因は何度も調べられ、分析されてきました。
曰く、「奇抜なデザインが受け入れなかった」。
曰く、「時代に先駆けた機能が余分だった」。
曰く、「価格帯設定が中途半端だった」。

しかし、今日ではドラッカーの意見に集約されていると言えるでしょう。
「その失敗の第1原因は、消費者がそれまでのような階層構造毎に一定のパターンの車を購入するやり方を変えていたのに、相も変わらず古い消費傾向に基づいた(前年のリサーチ・データを基に)車を作っていたことにある。第2の原因は、顧客志向を表向きは謳いながらも、エドセルというネーミングそのものが、フォードを継ぐはずだった長男の名を冠した自己・自社中心の志向を反映していたこと。したがって、作り手中心のプッシュ志向であったことにある。」

要するに、買い手である消費者の視点はまるで欠けていたのです。
これでは売れませんね。実際、消費者はアメリカ経済の発展を実感し、背伸びして高級車を買うか、今までの大衆車で我慢するかのいずれかを選んだと言われています。
ちなみにドラッカーはこの実例から(階層構造毎に一定のパターンの車を購入するやり方が変わった)、消費者動向の変化を読み取る中からビジネス・チャンスは生まれると説いています。

同じような失敗はついこの前も起こりました。これも自動車で、インドのタタ・モーターズが売り出した超低価格者「ナノ」です。
10万ルピー(約28万円)という価格帯は衝撃的で自動車を求めるインドの大衆に歓迎されるだろうと思われていましたが、これもまったく売れませんでした。
車は豊かさの象徴なのに、ナノ=安物と受けとめられたのが最大の原因とされています。

いずれのケースも作り手の独断が原因となり、消費者が本当に求めるものを見失ったと言えます。
いかがでしょうか、思い込みは往々にして失敗を招きかねません。その意味では、現実を多様な観点から分析することの重要さがおわかりいただけるのではないでしょうか。