ARECTIMES



塚田メディカルリサーチ



なぜ、お医者さんなのに、医療器具の開発を?


僕は、東大病院にいた頃から「ものづくり」が好きで、学者になるよりは、医療器具の開発を主にやろうと考えていました。でも、アメリカに留学したり、大学病院の医局長をして、34才で関連病院の部長になるなど、ずっと臨床医をしていて…結局、医療器具の会社を設立したのは、僕が37才のときでした。医者として現在の上田腎臓クリニックを開業したのはそのあと、39才のときUターンで戻ってきてからです。



最初は、どのような医療器具から

そうですね。僕の原点は、外科医として、もっといい方法はないか、患者さんにいいものはないか、と考えること。僕が師事した師匠の口癖は「つねに考えろ。同じ手術をするな。改良・工夫して手術に備えろ。器具を開発しろ!」と。外科医として最善のアプローチを追求するために、いつも議論してきたんです。東大病院にいた頃、科学研究費を使って一緒にグループで商品を考えました。日本で初めての超音波内視鏡なんか、みんなで考えたんですよ。

熱い議論が交わされたんでしょうね

当時は、医者はビジネスのこととか言うものじゃない、という風潮がありました。僕の考えたりした発明商品も、大手の医療器具メーカーにつくってもらったけど、案外、思ったイメージ通りには出来上がってこない。そのうち、医療器具やシリコン専門のメーカーで開発やっている人たちが、仲間を3、4人連れて来て、僕のアイデアに賭けてみたい、と。じゃあ、まあ2、3年、頑張ってやってみようか。そんな流れから自分で会社をやるようになったんですね。

医療器具のアイデアはやはり現場から?


現場に携わっていると、こういうのがあれば、より良いなという事で、そんなに深刻じゃなくて。まあ、ドラえもんみたいなものなんです(笑)。たとえば、尿路カテーテルの端末の開閉は、特にお年寄りとか手の不自由な人にはいちいち開けるのが大変だった。それを、磁石を使ってワンタッチで開けやすくしただけ。でも、これもオンリーワンで世界中で売れていますよ。物が単純だからね。でも、考えるのは4~5年かけて、いろいろと試行錯誤しながら、カタチにするのに3年位かかりました。

今後のビジョンは?

医療器具の開発は大手のメーカーでも難しい。オリジナルな発想が生まれにくいんだ。僕の夢はいつも、こういう物があれば、もっといいな、と。先にお金ありきじゃなく、エンジニアだった父の影響かな、ものづくりのアイデアを考えるのが好きなんです。そして、そのアイデアをカタチにする人、販売する人がいて、うちの会社は成り立っている。今後の課題としては、そのアイデアを世界のマーケットに対して、どう認めてもらうか。医療器具には国境も関係ないから、やはり世界戦略は重要になるでしょうね。




最後に、若い方へのメッセージを

たとえば、医者になったら、それで終わりではなくて、それから何をするのかを考えて欲しいね。医者になったら、医療は当たり前なんです。医療知識をもっているからこそ、医者でなければ出来ないものを作り上げる。世のため、世界に役立つものを生み出すために、医者の知識と技術を、もっと生かす。そういう発想が欲しいね。お金を儲けようという前にね。




にゅうとん倶楽部


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たまねぎの皮を商品にするアイデアは、どこから?


起業する前、私は青果市場に勤めていました。そこで、新規事業としてカット野菜を販売しよう、という話になり、これが、たまねぎの皮に注目するきっかけになりました。その事業というのは、たとえば、外食産業さんに、キャベツを芯まで抜いてハーフカットで収めるとか、たまねぎは皮をむいて中の食べられる分だけ収めるという仕事。今までの経験から、食べられないところはおそらく数パーセント程度と考えていたんです。けれど、実際にやってみますと、20数パーセント以上は、実は、食べられないという事が分かりました。特に、たまねぎは1日4トン分という大量受注でしたから、皮だけではなく、たまねぎの芯や頭の部分など意外と要らない部分があって、毎日1トン以上のゴミが発生しました。この処分を出来るだけ安いコストでやろう、と知恵を絞っていたんですが、あるとき、ある環境業者から「バクテリアでその生ゴミを消滅出来ますよ」と。それで専用プラントを作りまして、バクテリアを何キロ入れれば、1トンのゴミが消滅するか、と試していたら、なんと3日でバクテリアのほうが全部死滅してしまいました。結果は、予想外でしたが、たまねぎの皮には、スゴイ殺菌力があるんだ、とここで分かったんですね。



生ゴミの処理は大きな経営課題ですよね

結局、生ゴミとして処理するのにも、お金がかかりすぎるんです。それで、殺菌力もありそうだし、何とかして利用価値を見つけよう、と。いろいろな研究レポートを探し出して、100件くらいの資料を集めました。その中で着目したのがポリフェノール、そしてフラクトオリゴ糖でした。たまねぎの皮だって、人の健康にもいいのではないか、という仮説を立てたんですね。ただ、皮のままでは食べにくいので、乾燥させてみよう、と。でも、そんなこと、今まで誰もやったことがないから、どこに相談しても、いい返事がなかったんです。それを聞きつけた駒ヶ根の株式会社ヤマウラさんが、うちでやってみましょう、と気持ちよく引き受けてくれて、見事な乾燥プラントが完成しました。そこで試作品をつくって、成分の分析をしたり、豚の飼料に使っていい結果を出したり、さらには製品化までいろいろな方のご協力を得て、ラベルの作り方、パッケージの仕方までご指導いただきまして、平成16年7月9日にようやくデビューできたんです。



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たしかARECに入ってからの発売ですよね

ARECに入っていて一番良かったのは、信州大学各学部と連携が取れて、私のテーマによっての学部選択をして、そこにアカデミックなデータを積み上げていくことが非常にしやすくなりました。さらに、異業種交流ができること。たまねぎの皮の事業化、商品化も、一人では、とてもできなかったと思います。これは6社でコラボレーションを組みまして、各社から専門技術をご提供いただけた、ということが、一番のスピード化とローコストを実現できた理由です。私個人ではなく、ARECという看板があって、その看板の中でみんながコラボレーションに参加していただけたんだな、という風に感じています。




最後に、若い方へのメッセージを

にゅーとん倶楽部の理念は、今まで使われていなかったものに、どのようにして命を与えるか、価値をみつけてやるかということ。これは私の生涯のテーマでもありますが、若い人にも、とにかくチャレンジ精神を持って欲しい。本人の意欲ですね。決断したら絶対やるぞという熱い思い、情熱がやっぱり不可欠の条件じゃないですかね。それと、裏も真なり、逆も真なりという言葉がありますが、いわゆる発想の転換が大切。頭の柔軟性がとても重要だと思いますね。




日信工業株式会社



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ブレーキシステムは、自動車部品の中でも重要ですよね。


ブレーキは、人の生命に関わるものですからね。いま、環境と安全ということをキーワードにして、日夜、私どもの技術者400名ほどで必死に開発を進めているんです。でも、コスト面の要求も厳しいものがありますし、現状の技術の寄せ集めでは限界があるのではないか、と。それはそれで進めるとして、同時に、もっと飛躍するような技術が必要ではないか、といろいろ素材レベルから検討してきました。その中で、特にカーボンナノチューブに注目して、私どものプロジェクトがスタートしたんです。



社内ではなくARECに入居したのは何故でしょう?

自社の工場には、自動車をシミュレーションする大きな装置がありまして、磁場や振動の問題で、プロジェクトで必要な精密な装置を動かせないことがわかった。それが第一の現実的な理由です。それと、こちらの信州大学にはカーボンでは世界的権威の遠藤先生をはじめ、高分子系の有名な先生方が沢山いらっしゃって、そういう先生方と連携がとりやすいということも大きな魅力でした。今は、工学部、繊維学部、医学部と連携しながら、研究開発を進めています。さらに、3つ目の理由としては、いわゆる機密問題がありまして、少し会社から出たところに研究所を求めていたということです。


具体的にはどのような研究をされたんですか?

カーボンナノチューブは、強くて硬いのに柔軟であるという稀な特性を持っています。だからこそ、世界的に注目されているんですが、我々は、このカーボンナノチューブとアルミ系の複合を試みて、ワンランク上のものをつくることに成功しました。この基礎研究は平成18年にNEDO※からも、ひじょうに高得点で表彰されました。さらに、このとき「セルレーション」というものを発見したんです。これは私どもの造語でして、動植物の細胞「セル」のようなカタチができていくプロセスをそう名づけました。このようなナノレベルのセルレーションによって、物質の性質が変化して、耐熱性が物凄く上がった。硬く強くしても全体的に柔軟でした。これを、我々はブレーキのゴム部品に適用しようと、いま試作品をつくっています。

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ゴムに代わる素材ということですね

ゴムという分野は、一般的に消耗品というイメージがありますが、その耐久性が伸びることによって、ひじょうに応用範囲が広がります。ブレーキだけではなく、医学の分野でも人工関節など、この素材が活躍できるところはたくさんありますね。



夢のあるお仕事ですね。若い技術者も参加しているんですか?

うちのグループは7名いますが、年寄りは、私ともう一名で、あとは全員若い20代、30代ですよ。うちのような研究開発には、熱意が何よりも重要だと思っています。熱意こそ、すべての発明や発見の源ですからね。新卒や中途の人材採用も会社の総務まかせではなくって、熱意がある人を探すために、自分で大学へも顔を出すんですよ。それと、本業のブレーキ以外の開発もやってるので、やはり、説明しないとわかってもらえない。大学へ飛び込んでいって説明会を開催してもらったりしています。まぁ、30分くらいの面接で、本物の熱意を見抜くのは、なかなか難しいんですがね。


※NEDO=独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構






エコシンフォニー株式会社



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厨房の油汚れを落とすクリーンシステムということですが、そもそも、このようなビジネスを始めたきっかけは?


僕の原体験には、大好きな祖父が認知症になり、その介護をした経験があります。そのとき感じたのが、病室の悪臭をどうすればいいんだろうとか、部屋環境や好きな食べ物の記録が残せないか、とか。福祉の現場で何かお役に立ちたいというのが僕の基本にはあって…ある日、福祉施設の方から相談を受けたんです。施設の厨房で下のほうに油が溜まってしまい、その匂いがキツイから何とかしたい、と。



バイオテクノロジーを利用したと聞いてますが…

そうなんです。当時テレビのニュースで、タンカーの重油事故を知ったんですが、それとともに油を食べる菌があることも知りました。その菌を開発したバイオ技術会社がニューヨークにあると知って、ストーカーみたいにEメールを20通位送ったら、今度は向こうからエアーメイルが来て、実は日本に総代理店がある、と。さっそく、その大阪本社に飛んでいったら、彼らはまさしくバイオ商社なんですね。何百ガロンという単位で、こっちが必要な数ガロンなんてお話しになりません。それでも、こちらから実験データーをず~と提出し続けたら、ようやく小さな単位でも売ってもらえるようになったんです。

すごい情熱と行動力ですね。

バイオテクノロジーによって、施設の厨房に溜まっている油やその匂いを中和させる。僕がやりたかったのは、それだけだったんですが、実際に、製品化して販売しようしたら、施設だけではなく、大手スーパーの会長さんが非常に気に入ってくれました。スーパーストアには、油の処理をする場所があって、その床がとっても綺麗になる、と。この辺の情報がクチコミなんかで、ホテルにも広がっていき、マーケットが広がりました。

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ARECに入居されて、メリットはありますか?

僕の感覚ですけど、一番のメリットは情報の多さなんです。たとえば、これまで僕なんか無縁の公的機関や経済産業省の方々とお会いできるようになり、そのルートで助成金への道筋がついたり、専門家や教授陣と知り合えたことも、ARECならではの大きなメリットです。異業種交流で飲み会までセッティングしてくれるんですからね。日本を代表する一流企業の方や世界的に有名な教授とまで名刺交換ができ、新しい交流が生まれました。 



最後に学生や若い方へのメッセージを

やっぱり、自立心のある人がいい。そして正しい倫理観を持っていることが重要だと思いますね。僕は、東京に本社を置く会社もやっていますが、人材的には長野と東京では違いがあります。長野には、おっとりしたタイプが多いかな。研究分野では、ひるまず、へこたれず、歯を食いしばって、やりますよね。だから、長野は、モノを作っていくという点で、そのマジメな姿勢で超人的な能力を発揮するんじゃないかと思います。若い子たちは、もっともっと自信を持っていいですよ。








㈱ナノ炭素研究所


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そもそもナノダイヤモンドとは、どんなものですか?

私は、もともと大学の研究室では炭素の専門家だったんです。

65歳で定年になってから、今まで研究していたことを、世の中の役に

立つ形で出したい、と思って起業しました。


そのとき、炭素の中では、やっぱりダイヤモンドが面白い、と。

一般的には宝石のようなダイヤモンドをイメージするでしょうが、

工業用にはミクロの粉を使うんです。

ミクロの粉は1,000分の1ミリ。

そのさらに1,000分の1ミリがナノです。

ナノテクの材料にするためにダイヤモンドをナノにする方法を

7年間かけて開発して、ようやく米国の特許を取得したところです。

日本ではまだ公開特許の段階です。

それは、具体的に何に使うんですか?

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ありとあらゆる物に使える基本的な素材です。

たとえば、ガラスに混ぜて使うことが考えられます。

ガラスは、硬度もあるし光もよく通す優秀な素材です。

ただ、何かに当たった場合割れてしまう。硬いものがぶつかると、

全体が壊れてしまう。

これが最大の欠点。

そのため、ガラスの主要な用途は、ガラス窓ぐらい。

地震があると、ビルの窓ガラスは全部一斉に割れて落下してしまいます。

しかし、これがダイヤモンドで出来ていたら、ほとんど壊れませんから。

ダイヤモンドガラスであれば、建物の重量そのものも支えられるんですよ。

その他にも、地球上で一番効率よく熱を通すとか、硬い、壊れない、変形しない、というダイヤモンドの特性を生かして、コンピュータや自動車の部品など、実にさまざまな分野での応用が考えられます。

そういう開発専門の企業というのは、日本では珍しいですね

開発専門ベンチャーというのは、高度な知的活動ですから、

まず人材面でなかなか難しい状況があります。

日本の場合、大学の工学部で優秀な人材は、ほとんどが大企業に就職しますからね。

若い人たちは、大企業に入ることが人生の目的になっていて、

その大きな傘の下で安定した生活をすることが成功者だと勘違いしているんです。

これはアメリカだとまったく違って、

「優秀な人材はみんな社長になりたい」

というベンチャー志向なんですね。

日本の将来を考えた場合、研究開発というのは、

ますます大事になってくると思いますが、我々のような中小企業にも、

優秀な人材が集まってくるような社会環境になってくれればいいですね。

最後に、このARECに入居された感想を

大学の研究室出身ですから、信州大学という環境は、仕事がしやすいですね。

それに長野県や特に上田地区は精密工業が盛んな土地柄ですし、

ナノテクノロジーに関しても非常に先進的で理解があり、

そういう意味では理解のある人がいっぱいいるんですよ。

いろいろなよその施設と比べてみても、ARECは非常に働きやすい。

ARECの管理も組織も非常に良く出来ていて、

スタッフの皆さんも、熱心にサポートして下さる。

あと、個人的な理由ですが、私はもともと信州が大好きです。

高速道路ができ新幹線が走り、昔に比べて長野県の立地条件が良くなりました。

何も無理して東京の住みにくい場所に居る必要がない。

特にインターネットが出来ましたから、

どこにいても世界中の研究者とコミュ二ケーションが常に出来ます。

いまはここから歩いていけるマンションを借りていて、

その部屋からも、山並みがすぐ近くに見えて、素晴らしい眺めですよ。

株式会社ナノ炭素研究所

http://nano-carbon.jp/

Contact:

AREC内 18号室

TEL.0268-75-8381? FAX.0268-75-8551

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